●『すばらしきクリスマスケーキ』
朋也は抱えていた大きな箱を、慎重にテーブルの上に置いた。 「……」 何しろ相手は壊れ物で、天地無用で、横置厳禁の危険なブツだ。 朋也の後ろではチョコも、心配そうに智也の手を見つめていた。 箱の縁に手をかけて、朋也がゆっくりと蓋を開ける。 背の高い蓋の下から徐々に姿を見せる白いブツ。 大量の赤い突起や、褐色のプレートを全身に身にまとうソレは、なんとも巨大なクリスマスケーキだった。 「にゃぁぁぁぁぁっ♪」 ケーキを見た瞬間、朋也に歓声を上げたチョコが飛びつく。 抱きついて、満面の笑顔でチョコが朋也の頬にキスをする……が。 「はやくたべたいにゃぁ〜」 突然のキスに朋也が照れる間も無く、チョコの視線はケーキに釘付けになってしまう。 ころころと表情を変えるチョコに、朋也は苦笑しながら満足そうに頭を撫でた。 「はは、急がなくてもケーキは無くならないって」 撫でられてくすぐったそうに目を細め、朋也の手の感触を楽しむチョコ。 今にもケーキに向かって飛びつきそうなチョコは、もうワクワク押さえきれないようだ。 そんなチョコへ、そっと朋也が顔を寄せる。 「これからもさ、ずっと一緒だ。俺の大食いのお姫様」 普段なら言わないようなセリフに、頬を赤らめながら朋也が告げる。 そんな彼の言葉にチョコも驚いたようで、少しの間きょとんと彼の顔を見上げ、そして あらためてにっこりと、笑顔で朋也へ抱きついた。 「うみゅ♪ ずっと一緒にゃぁ〜♪ ……大食いは余計にゃよ〜」 笑顔で、しかし思い出したように頬を膨らませチョコが朋也の顔を覗き込む。 ほんの少しケーキを覗き見て、今度こそ朋也の目を真っ直ぐに見つめる。 「メリークリスマスにゃぁ」 チョコの腕が朋也の首に回され、2人の距離を縮める。 「メリークリスマス……」 瞼を閉じたチョコの体を、朋也が眼を閉じてそっと抱き寄せた。 2人の唇がゆっくりと重なる。 用意した特製ケーキよりも甘いキス。 たっぷりと時間をかけて味わった2人は、笑顔でケーキへ視線を移す。 大きなケーキは食べるのに時間がかかりそうだが、そんな事も楽しみに変わる。 だって2人のクリスマスは、まだ始まったばかりなのだから。
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