●『にくきうせれなーで』
クリスマスの日。 とものとヴァナディースは例年通りに二人でクリスマスを祝おうと約束を交わしていた。 「にゃーおん」 そんなヴァナディースの部屋に、黒い毛並みの猫が一匹。一声鳴くと、部屋の中央に置かれたバスケットの中にするりと潜り込んだ。ぱたむ、と勢いでバスケットの蓋が閉じて、辺りは静かになる。 黒猫は誰あろう、ヴァナディース本人だ。クリスマスの日の、ちょっとした思いつき。大好きな恋人、とものとの距離を縮めるグッドアイディア! ……それは、とものの飼い猫になること。 つまり、私自身をプレゼント♪ というわけだ。これでとものと居放題、とものに甘え放題、とものが撫で放題、である。 とものはヴァナディースが猫変身できることを知らないようだし……現に今まで何度か猫姿でとものの前に現れたけれど、バレていない。クッションを詰めた快適なバスケットの中で自分のアイディアに、ふふふ、と思わず笑みを零すヴァナディース。 その時、玄関の方でがたがたと扉を開ける音がした。
「スュール?」 いつも通りに扉を勝手に開けて、遠慮なく上がり込むともの。けれどもちろん、そこにスュールことヴァナディースの姿はない。鍵は開いていたのに……と、きょろきょろ辺りを見回す。 目に付くのは部屋の中心に置かれた大きなバスケットと、添えられたクリスマスカード。 「にゃーあ」 バスケットの中から鳴き声がして、とものは思わず目を見張ってバスケットをしげしげと眺める。カードには『Merry Xmas Tomono♪』と書かれていた。 「にゃーん」 また。 声に誘われるように、とものはバスケットの蓋を開けた。中から出てきたのは真っ黒で艶やかな毛並みに、青い瞳が印象的な綺麗なにゃんこ。 嬉しそうに甘えてくる黒猫を慣れた手付きで抱き上げて優しく撫でる。 「……あれ? 君はたまーに私のまわりに現れるにゃんこ?」 去年のクリスマスにも見たような気がする……けれど、それがヴァナディースだとは欠片も思っていない。そんなことよりも目の前のにゃんこにテンションアップである。 「よし、君の名前はせるくるかだ!」 勢いに乗って名前もつけちゃう! が、クリスマスのイベントでも猫を貰ってきてしまい、今やとものの家は猫だらけである。とーっても幸せなのだが、姉への説明責任は果たさなければならない。 (「紛れ込ませ……」) 一瞬、頭の中を過った考えを追い出して、とものは首を横に振った。サンタクロースに全責任を押し付けよう。今日はサンタの日だし、嘘じゃない。うん、これでいこう。 「よろしくね、せるくるか」 にゃんこのおでこに、ちゅっと口付ける。 「なぁー」 ふふっ、よろしくね♪ ごはんは美味しいのにしてよね、とヴァナディースは甘えた声で鳴いてみせるのだった。
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