乾・玄蕃 & 宮下・榊

●『何時かまた二人で…』

 赤の魔法使いと、白の魔法使い。
 小さな白の魔法使いは、故郷の英国へ戻ると告げた。
 泣きそうになるのをこらえようとして……けれど溢れる感情を抑えきれなくて。『あなたの弟子でよかった』と、やっとの想いで、小さな魔法使いは言った。

 未だに泣き顔のままの弟子・榊を慰めるべく、師匠である玄蕃は銀誓館の野外メイン会場に設置された大きなクリスマスツリーの見物に彼を連れ出した。
 メイン会場は大勢の人々で賑わっている。お互いはぐれないように、玄蕃は小さな手を引いて、榊は大きな手をぎゅっと握って、ツリーの目前まで歩いた。
 きらびやかなイルミネイションが、夜の闇の中にぽうっと浮かんでいる。
 とても大きなツリーだった。ただ静かにたたずむその姿を前にして、玄蕃はおもむろに己の被っていた三角帽子を榊に手渡すと、そのまま彼の小さな身体をひょいと肩車した。
 榊の目線が一気に高くなり、ツリーがいちだんと近くに、明るく見えた。

 赤の魔法使いは穏やかながらも寂しげな笑顔で、
 白の魔法使いは泣き跡残る顔に浮かべた笑顔で。
 しばらくの間、口を開くこともなく。ただじっと、ツリーを見上げていた。

「いつか……いつかまた、銀誓館のクリスマスツリーを二人で見上げよう」
 沈黙を先に破ったのは玄蕃のほう。
「……もっとも、次に会う時は肩車など出来ぬほど大きくなっているかもしれんがな」
 そう小さく付け足して笑う。
 榊は小学生の男の子だ。まだまだ成長の余地がたっぷりとあるから。勿論それは、身長や体重の話だけではなく。
 玄蕃の言葉のあと、肩車する上の方から、小さな嗚咽が聞こえて来た。
 榊は先程預かった玄蕃の……師匠の、三角帽子を。ぎゅっと握りしめながら。
 再び泣き出しそうになるのをこらえて、はっきりと答える。
「……はい。何時か、絶対にっ」

 そうして再会の約束を誓い合うと、二人はいつまでも、いつまでもツリーを見つめていた。
 この光景を、決して忘れ得ぬ思い出とする為に。



イラストレーター名:ソガ