●『二人だけの時間』
学園のパーティー会場からの、しんしんと雪が降る帰り道。吐く息は白く、辺りは静まり返っている。 「……綺麗な雪、だな」 足を止めて夜空を見上げ、響はぽつりと呟いた。 隣を歩いていたにょろもまた、彼にならうように空を仰ぐ。 「うん、綺麗!」 点々と立つ街灯の明かりを受け、空から舞い落ちてくる雪がきらきらと光っていた。 (「ちょっとロマンチックだな」) そんなことを思いながらにょろを見る響だったが、当の彼女はまるで子犬のようにはしゃぎまわっている。 楽しそうなその姿を仕方ないなと苦笑しながら見つめる響。彼は、にょろのそういうところが好きなのだ。 けれど恋人同士なのだから、このロマンチックな夜に恋人らしいことをしたいという気持ちがあるのも確かで。 響はしばらく何かを考えていたが、やがて意を決したように、いまだにはしゃいでいるにょろに向き直った。 「にょろ」 「うにゅ?」 名を呼ばれ、にょろが振り返る。 「あれ、どうして眼鏡外して――」 響は何も言わずに彼女の腕を取って引き寄せる。腕の中に閉じ込めると、そのまま腰に手を回し、抱き上げるような形で彼女の唇を塞いだ。 突然強引に唇を奪われたにょろは、驚きに目を見開いている。 長い抱擁、そしてキスが終わり。 響はきょとんとしているにょろをそっと地面に下ろすと、すばやく眼鏡をかけなおした。 にょろはと言えば、きょとんとした表情のまま自身の唇に触れている。 ようやく事態が飲み込めたのか、彼女は満面の笑みを浮かべると、飛びつくように響の腕にしがみついた。 「ふふー、響さんの唇、あったかかったにゅー♪」 「そ、そうか? なら……何よりだ」 自分のしたことにどうしようもなく照れて、にょろから顔をそらす響。はずかしさのあまり、少々ずれた答えを返していた。 そして、二人はまたゆっくりと歩き出す。 嬉しそうなにょろにしがみつかれて歩きにくそうにしながらも、離れろとは言わない響。 甘い雰囲気をふりまきながら歩く二人。 幸せそうな二人を包むのは、どこまでも白い雪の結晶であった。
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