●『垣根のないクリスマス』
鎌倉ではその日、雪が降っていた。 灰神楽家の別荘の素晴らしい日本庭園にも夜になってほんのり雪が積もり、灯籠の灯りと合わせてどこか幻想的な雰囲気になっている。 庭を見渡せる座敷では、操が一人でクリスマスパーティーの準備をしていた。 「それにしても紹姉はどこへ出かけたのでしょう?」 自作のブッシュ・ド・ノエルを鞄から出して、操が首を傾げた。 少し出掛けてくるわ、と姉である紹がこの部屋を出て行ったのは数十分前。 準備はほとんど終わりかけで、テーブルに並んだごちそうたちは早く食べてと訴えている。 「お待たせっ」 バーン、とふすまが開いた。 現れたのはミニスカサンタの衣装を着た紹。 「……な、何て格好で帰ってきましたのー!?」 あられもない格好に、なぜか頬を赤くしながら操が叫ぶ。 それを満足げに聞いて、紹はニヤリと笑った。 「最近、やけに怪しげな段ボールがあると思っていましたわ」 結社に置いてあったそれらの謎が解けて、操が息を吐く。 聞けばそこで着替えてきたらしい。見た目のいい彼女のことだ、ここに来るまでにナンパなどされなかったのかと尋ねると、彼女はあっさり答えた。 「睨みで撃退しましたわ」 「そう……」 余計な心配だったようだ。 操がまだ持っていたケーキをテーブルに置くと、いそいそと紹が近づいてきた。 「ブッシュ・ド・ノエル。美味しそうね」 サンタは嬉しそうに笑った。 二人が揃えば、パーティーの始まりだ。 雪の降る外の寒さも、部屋の中までは届かない。思う存分食事を楽しんで、心ゆくまでおしゃべりをした。プレゼント交換をした結果、中身が同じ薄緑色のマグカップだと分かった時には、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。 こんな風に、わだかまり無く過ごすクリスマスがくるなんて。 めまぐるしく変わった周囲や、自分たちのことを。くだらないね、なんて笑える今が幸せというのかもしれない。
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