四嬢寺・重 & 正岡・龍之介

●『 しあわせのせかい 』

 ゆったりとした穏やかな時間が流れている。
 外ではクリスマスを祝う人々でさぞかし賑やかだろう。しかし、龍之介の借りている部屋の中では、外の賑やかさとは違い、静かで心地よい空気が流れていた。
 龍之介と重の二人が、同棲をはじめて、初めてのクリスマス。二人で飾った部屋で、二人で作った料理とブッシュドノエルを食べて、二人で洗い場に立って後片付けをした。
 ふとできた、ぽっかりと空いた時間。部屋を照らすロウソクの優しいともしびの中、いつもそうしてるように、龍之介は、重を後ろ抱きに抱きしめて、抱きしめられた重は、龍之介の温もりに身を預けていた。
(「重の笑顔が、見たいと思った」)
 きっかけはそんな些細なこと。しかしそんな些細なことでも、龍之介にとっては大切なことだ。銀誓館で出会ってから、今まで同じ時間を歩んできた。龍之介のかけがえのない人となった重は今、龍之介の腕の中で、優しい微笑を浮かべている。言葉では言い尽くせないほどの想いを、龍之介は強く抱きしめることで示す。
 龍之介に強く抱きしめられて、重は心地よい安堵に包まれていた。龍之介の部屋で過ごす初めてのクリスマス。一緒に色々な事をした。それが何よりも嬉しかった。ただ抱きしめられているだけ。それだけでも龍之介の全てが、重を満たしてくれる。
「龍之介さん……。ずっと……、こうしていて下さいね……」
 重は思う。龍之介さん、あなたといることが。それが私の幸せだと。
「あぁ……。一緒だ、重。ずっと、いつまでも……」
 龍之介は誓う。重を、重の笑顔を守りぬこうと。
 静かに流れる時間。交わす言葉はそれだけで十分。これ以上交わす言葉もなく、龍之介と重はお互いの温もりと鼓動の音だけを感じる。相手がそこにいるということを確かめ合う。それだけで、自然と笑みがこぼれる。
 優しく重ねあった左手。その薬指にはおそろいの、銀色のエンゲージリングがロウソクの光に照らされて、光っていた。



イラストレーター名:宮園アカネ