●『Merry Christmas』
クリスマスツリーを見に行きませんか? そんな駈からのお誘いで出掛ける事にした二人。
初めての道、見慣れない景色。 ここはどこだろうと、駈は周囲を見渡した。 すっかり道に迷ってしまった原因は、憧れの相手とのお出掛けに緊張したせいだろう。方向音痴は健在のようだ。 こんな日だから格好よく決めたいのにと思う駈とは裏腹に、蒼泉は雑貨店を興味深げに眺めてから、のんびりと笑顔を浮かべた。 「お散歩のようで楽しいですね」 蒼泉は楽しい散策気分でいるらしい。それならばまぁ良いかと、内心で思い直した駈は、そうですねと笑い返した。
やっと目的地へ辿り着くと、設置されているクリスマスツリーは冴えた夜空に映えて格別の美しさを見せていた。 誘った側の駈も、ここまで綺麗だとはと、我を忘れて感動してしまう。 横を見れば、きらきらと光るイルミネーションに照らされてながら、蒼泉も時間を忘れて見惚れているようだ。その様子に駈は顔をほころばせた。 しかし、白い息を吐く蒼泉の唇。その前で合わされている指先が少し赤い。 元からあまり体温が高くない彼女の事、冷えているのだと気付いた駈。何か暖かいものをと思いを廻らす、手を繋ぐのは恥ずかしい。 急いで自分の使っていた手袋を外して、蒼泉へと差し出した。 その好意に驚きながら恐縮を見せていた蒼泉だったが、結局は嬉しそうに手袋を受け取って、少し大きいそれを手へとはめてみる。 はめた後、頬に当ててみれば、まだ手袋に残る駈の温もりが伝わってくる。 その温もりは手や身体、なによりも心を暖かくしてくれるようで……。 顔を赤くして、目を逸らしている駈に小さく笑いながら、蒼泉はそっと感謝の言葉を贈る。 「ありがとう、ございます……駈さん」 「どういたしまして。こちらこそ、ありがとう、蒼泉サン」 きちんと蒼泉を見つめながらも、照れ臭そうに微笑んだ駈。 穏やかに笑いながら頷く蒼泉の姿を見ていると、来年もこうしてクリスマスを過ごせたらと、祈らずにはいられない。 重なる時間、包まれる優しさ。 駈の祈りと、蒼泉の密やかな感謝のこもった白い息が、聖夜へと静かに溶けていく。
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