●『公園での二人のクリスマス』
「お待たせ」 駅前の巨大なクリスマスツリー。待ち合わせの定番といえる場所だが、今日ばかりはその客層は少しばかり異なっていた。 二人組ばかりのツリー前で一人、長い黒髪を寒風に揺らしながら所在無げにうろついていた陽炎の後ろから少女の声がかかる。 トレードマークの白い帽子に白いコート、青いマフラーを身につけた小さな体は、確かに陽炎が呼んだ恋人――椋である。 「どうしたの? もしかしてすごく待った? 怒ってる?」 「い、いや……」 だというのに、陽炎は俯いたまま、彼女の問いかけにも小さくぽつりと言葉を返すだけである。 (「?」) 普段らしからぬ陽炎の態度をいぶかしんだ椋は、恋人の表情を確かめようと覗き込み――その顔が真っ赤になっているのを確認する。 「陽炎? どうし……た」 言いかけ、途中で止まる。視界の端に映った人影。陽炎の後ろの人影。 周囲の沢山の人。 人。 人。 それら全てがひとつのグループであり、自分達もその一部なのだと気付く。 「…………」 今日が何の日で、自分は何のために呼ばれたのか。 状況を認識した椋は、顔を真っ赤にして目の前の恋人と同じように固まってしまう。 それからしばらく……。 先に緊張が限界を突破したのは椋だった。 体当たりするみたいに間合いを詰め、思い切り体を伸ばして恋人の唇を奪う。 「っ椋!?」 突然のことに驚き陽炎が声を上げる。 椋の方も自分がいま何をしたのか理解したらしく、両手で突き放すと火照った顔を隠すように慌てて背を向ける。 「……プ、プレゼント! 今日クリスマスだから!」 よほど恥ずかしかったのだろう。 そんな風に照れ隠しを言う椋がとても愛おしく思え、陽炎は彼女の体をそっと抱きしめ――るだけの度胸は無く、肩にかけた手はその小さな体を振り向かせるだけに留まる。 「……陽炎?」 「プレゼントだ。俺からの。クリスマスプレゼント」 向き直るなり突き出された、小さな箱と陽炎の顔を交互に眺めて不思議そうに問いかける椋に、陽炎は顔を朱に染めつつぶっきらぼうにまくし立てる。 「あ、ありがと」 ずっと握っていたのだろう、少しばかり皺の寄ったラッピングに陽炎の自分に対する想いを感じた気がして、椋の胸が温かいもので満ちていく。 「……?」 と、熱くなった首筋に冷たいものを感じ、俯いた顔を持ち上げる。 「雪だ……」 「ホワイトクリスマス、だな」 うわぁ、と感嘆の溜息を漏らす椋。陽炎も同じように空を見上げ、感慨深げに呟く。 冬の夜空をゆっくりと降り落ちる、冷たく白い花びら。 午後六時に起きた小さな奇跡は、聖夜から恋人達へのプレゼントなのかもしれなかった。
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