●『今日は、遠回りして帰ろう』
クリスマスパーティーの帰り道、ふたりで手をつなぎ華やかなクリスマスの街を歩く。 街を彩るイルミネーションはきらきらと輝き、まだまだその明かりは消えそうにもない。 クリスマスの夜はあちらこちらで大勢の人々が楽しみ、そしてこどもたちはプレゼントを楽しみに眠る。 ふたりはもう『こども』ではないから。このきらきらの夜の街を、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。色々なところを廻って楽しむのだ。 「ツリー見に行きましょう、先輩!」 「わぁ、ケーキおいしそう、食べていきませんか?」 「サンタさんがいっぱいですねっ」 年下で、女の子であるすずの方がやはり様々なものに先に興味を示し、光國の手を引き歩き回る。 そんな彼女の様子を、光國は満足げに眺めて、そして自分も一緒に楽しんで。 「まったく、すずっちが食ってるの見てるだけでおなかいっぱいになりそうだぜ」 すずがケーキやらクレープやら肉まんやらを次々ねだってはその小柄な身体にめいっぱいに詰め込んでいく姿は、とても可愛らしかった。 「そんなこと言ってないで、先輩ももっと食べたらいいんです」 ちょっと恥ずかしかったのか、すずはぷいっとそっぽを向いてしまった。 でもそんなところもやっぱり可愛らしくて、光國はにこにこと笑ってすずを見つめる。 ふたりの周りでも、似たようなカップルが笑い合っている。 混雑というほどではない、ゆったりとした人々の動き。とても楽しい、独特の雰囲気に飲み込まれて。いつまでもこのお祭り騒ぎが続けばいいのに、と思った。 けれども、時間というものは限りあるもの。 (「もう少しだけ、一緒に歩きたい」) 時計の針は無情にも進んでゆくけれど、あと、ほんの少しだけでいいから。 無言のうちに、お互いにもう一度しっかりと手をつなぎ直す。 今日はほんの少し、いつもより遠回りの帰り道。 冷たい空気の中でも、ふたりで歩く一歩一歩はとても楽しくて、そして、あたたかかった。
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