吉師・鴇継 & アリス・キャロライン

●『時間が止まればいい、そう思った』

 冬の街は寒さも吹飛ばすような、活気に包まれていた。
 通りの左右を見回せば、どちらを向いても赤白緑のクリスマスカラーに染められている。
 その中でも大きなサンタの看板を掲げる雑貨店は、人気のお店のようで店内はなかなかの賑わいぶりだった。
「……これも……あれも……可愛いし、似合いそう……うぐぐぅ?」
 満面の笑みで店を出て行く女の子の横では、鴇継が棚に並ぶ小物を次々に手にとっては戻す作業に励んでいる。
 それほど広くない店内でも、置いてある小物はどれもかわいくて、クリスマス用に用意された品々はどれも彼の心を揺さぶるばかり……。
 そんな鴇継の背中を見ながら、アリスはクスクスと忍び笑いを洩らす。
 互いに贈るプレゼントを一緒に買いに来た2人だったが、アリスはもうしっかり用意してあったりするのだ。
「交換は後のお楽しみね!」
 棚の前で悩み続ける、彼を見ながらアリスは嬉しそうに微笑む。
 やがて鴇継も、プレゼントを彼女に見えないように包んでもらうと、アリスに手を引かれて2人揃って店を出る。
 クリスマスソングが流れる表通りには、2人が買い物をした店のほかにもキラキラと輝くイルミネーションが飾られた店が並ぶ。
 アリスがその一つの前で足を止めた。
「わぁ……」
 ショーウィンドウの中では、夜空を小さなサンタがトナカイの引くソリに乗り、歌のリズムに合わせて子供の人形が首を振る。
 歩くたびに、ウィンドウの中は次々と違う景色を見せ、それにあわせて表情を変えるアリスを鴇継が隣で見つめていた。
 やがて明かりが途切れると、アリスの口数が少し減ったように感じ、鴇継はちょうどよいベンチを見つけて声をかける。
「……少し、疲れた……そこで休ませてもらっていいか?」
「あ……。うん」
 少し小さめのベンチは、2人で座ると肩がぴったりとくっついてしまう。
 他愛ない会話をする間にも、鴇継はそれが気になってどこか上の空だ。
 見つめ合う2人の間に、小さな雪が舞い降りる。
 それを合図にしたかのように、次々と粉雪が夜の街に降りだした。
「幻想的だわ」
 街の灯りに光る雪を見て、うっとりとするアリスの隣で、鴇継が寒そうに少し震える。
「……へ、へくしっ!」
 そんな彼にアリスは微笑み、巻いていたマフラーを緩めると、鴇継の首にそっとかけた。
 それだけにととどまらず、温もりに目を細める鴇継に、そっとアリスが口付けた。
「メリークリスマス。トキ」
 目を白黒させる鴇継の目の前で、アリスが優しく微笑む。
 彼女のきれいな目も、髪も全部が彼の視界を覆う。
(「ゆ、勇気!」)
 心の中で精一杯叫んで、鴇継がアリスの体を抱き寄せる。
「アリス……メリー、クリスマス、な……」
 今度は、鴇継が優しく抱き寄せたアリスの唇へ口付ける。
(「このまま時間が止まればいい」)
 静かに降る雪の冷たさも忘れて、互いの温もりを感じ、そう思った。



イラストレーター名:つきと