杉乃里・雪菜 & 隈垣・斗志朗

●『白銀の誓い』

 街頭の大きなツリーを彩るイルミネーションが、音もなく瞬いている。
 斗志朗は寒そうに肩をすくめ、すっかり暗くなった空を見上げた。いつの間にか、雪が降り始めていた。白い雪の欠片が、雪菜の漆黒の髪を飾るように舞い降りては、ふわりと溶けて消えていく。
「あれから一年が経つんだな。時が流れるのは早い」
 吐く息は白い。通り過ぎる人は皆、分厚いコートに身を包んでいる。
「忘れられない思い出をありがとう」
 呟いた雪菜の指には、たった今交換したばかりの指輪が光っていた。視線を落とせば、斗志朗の指にも同じように指輪が見える。
「これから先もずっと一緒にいれるとええね」
「この指輪に誓うよ。ずっと離さないと……」
 斗志朗は腕を伸ばし、雪菜をそっと抱き寄せた。その唇にキスをすると、雪菜は背伸びをするようにして、その広い背中に両腕を回した。
「おおきに。ウチも、同じ想い、やから。だから、その……」
 雪菜は言い淀んだ。斗志朗はそんな雪菜の顔を見下ろし、照れたように微笑んだ。
「俺に言わせて?」
 白い頬に顔を寄せ、耳元で低く囁く。
「俺と……結婚してほしい」
 雪菜ははっと目を見開いた。その瞳がみるみる潤んでいく。至近距離からの斗志朗の視線を感じながら、雪菜は小さくこくりと頷いた。
「花と、指輪と、プロポーズやなんて。ウチ、一度にこんなにたくさんプレゼントをもらってええんやろか? 一生分の運を使い果たした気分やわ……」
 首を傾げ、困ったような表情で斗志朗を見上げる。
「お返し、せんと。いかんね……何が欲しいか、考えといて?」
 斗志朗は雪菜の肩を抱いたまま、優しく笑う。
「もう欲しいものは決まってるから」
 背を屈めるようにして再び耳元に顔を寄せ、何事か囁いた。
「……っ!」
 雪菜はぱぁっと赤くなった。恥ずかしそうに俯き、肩に置かれた手をそっと握って頷く。
「それでよければ、いくらでも、あげるから」
 斗志朗は雪菜の細い指に自分の指を絡めた。ひんやりとした冬の空気の中、互いの体温だけが温かい。
「ウチは、一生、貴方のものやから」
 白い息と共に、雪菜は呟いた。
 雪はしんしんと降る。しかし、今の二人はその冷たさを忘れていた。傍らに立つツリーのイルミネーションが、優しく瞬く。
 まるで、寄り添う二人を祝福するように。



イラストレーター名:naru