●『Let's stey together』
「先輩、寒くないですか?」 クリスマスパーティ会場を歩いているキヨハルは、綺麗な着物を着てキヨハルの後ろをゆっくり歩いている乃ノ霞を気づかって、先ほどから何度も振り返り声をかける。そのたびに、乃ノ霞はキヨハルのことを見上げて、小さく微笑んでうなづいていた。 キヨハルは、ちょっとだけ後ろめたい気分が残っていた。門限の厳しい乃ノ霞を強引にイルミネーションに誘ってしまい、帰った後で乃ノ霞が彼女のおじい様に厳しく怒られることを考えると、手放しで浮かれてはいられなかった。時々不安になり、乃ノ霞の表情をちらっと見ては、気づかう言葉をかける。その繰り返しだった。 不意に、乃ノ霞がキヨハルの手をぎゅっとつかむ。何事かとあわてたキヨハルが乃ノ霞のほうを振り返ると、乃ノ霞は小さく微笑んで、キヨハルと目を合わせる。 (「そんなに不安がらなくてもいいですよ? 今日、荘家様にお誘いいただいたこと、とても嬉しかったです。それに、今、私はとても楽しくて、どきどきしています。おじい様は……確かにちょっと怖いですけれど、こんなに楽しいのは生まれて初めてですから……荘家様も、そんな顔をなさらないで下さい」) 乃ノ霞は口には出さないが、そんな風に思いながら、手を握り、目を見つめ、キヨハルの背中に体を寄せる。そして、近づく顔にどきっとしたキヨハルに、再び、小さく微笑んだ。キヨハルは、乃ノ霞の気持ちを受け取って、乃ノ霞に微笑み、手を握り返して空を見上げた。 「先輩、綺麗ですね」 白青色に輝くイルミネーションを見上げていたキヨハルは、そう言うと、同じように見上げている乃ノ霞の顔に目線を向ける。キヨハルの吐く息が白く舞い上がり、キヨハルの視界を霧のように霞ませる。霧と、イルミネーションの光と、乃ノ霞の顔が幻想的に重なり、キヨハルの目には乃ノ霞しか映らなくなっていった。 楽しい時間はあっという間に過ぎ、そろそろ帰らないといけない時間になる。この楽しい時間がずっと続けば良いのに……と、乃ノ霞は思いながらキヨハルを見る。キヨハルも同じような表情をしていたが、やがて意を決したようににこやかな笑顔を作り、 「先輩……、来年のクリスマスも一緒に過ごしましょうね」 そういうと、乃ノ霞ははっきりとは口に出さなかったが、こくり。とうなづいた……ように、キヨハルには見えた。 そして、2人は名残惜しそうに帰路に着く。それぞれ、幸せな思いをお土産にして……。
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