潦・ともの & ヴァナディース・ヴァーサ

●『あれは私の・・・あれは私の・・・』

 富豪であるヴァナディースの大きな家に集まった二人は、さっそくパーティを始めていた。
「あ! サンタさんが乗ってるとこは私の……!」
 メインも終わり、デザートのケーキとなった所で、とものが声をあげる。
 その理由は、ヴァナディースが取ろうとしたケーキの上に置かれた砂糖菓子のサンタクロースが原因だった。
「え〜〜」
 いつもなら快く譲るヴァナディースだが、ふと思いついた悪戯の為に、不満げな様子を見せる。
「スュール、ダメ?」
 まるで捨てられてた子犬のように、もじもじと上目使いで見つめるともの。
(「あ〜〜、やっぱりかわいいわねぇ」)
 そんなとものに、内心苦笑しながら一つの提案をする。
「そんなに言うなら、渡してあげるけど……」
 一旦言葉を切ると、意味深な笑みを浮かべるヴァナディース。
「あげるけど……?」
 そんな彼女の様子に、思わず聞き返すともの。
「条件として、お互いに『あーん』で食べさせあう事」
「…………えぇ?!」
 内容を理解するのに数秒。
 その意味を理解したとたん、とものはパニックになる。
「あ、そ、その、『あーん』ってのは」
「あら、とものは嫌?」
 予想通りの反応に内心喜びながら、冷静に返すヴァナディース。
「え、あ、う、……い、嫌じゃ無い」
 ヴァナディースに目をやり、彼女が手にしたケーキに目をやり、真っ赤な顔をしてうつむいて……。
 そうして悩んだ後の答えが、これだった。
「じゃ、すぐに準備するわね」
 先程の意地悪な態度はどこへやら。
 さっそく手にしたサンタが乗ったケーキをとものに渡すと、自分の分の準備を終えるヴァナディース。
「はい、あーん」
「は、はい、あー」
 躊躇い無く笑顔で差し出すヴァナディースと、顔を真っ赤にしておずおずと差し出すともの。
 と、その時とものの視界に、ヴァナディースの胸が入ってきた。
 大きく開いたドレスを通してもはっきりと自己主張する立派な胸。
 おもわず見とれた拍子に、無情にもケーキがスプーンから零れ落ちる。
「あ」
「あら」
 慌てた拍子に、同じようにヴァナディースのもつスプーンからもケーキが零れ落ちる。
 しかし、その結果は大きく異なった。
 ベタリと音を立てて、ヴァナディースの手にしたケーキは無残にも床に落下したのだが……。
「胸、冷たい……」
 とものの手にしていたケーキは、あろう事かヴァナディースの胸の上に落ちたのである。
 じっとそのケーキを目にしたとものは、暫くして自分の胸に手を置く。
「私の……」
(「あらあら……」)
 何を言いたいのかは良くわかるが、とものにはともののかわいさがあると思っているヴァナディース。
 胸に憧れるのは分かるが、こればっかりはどうにもならない。
 とりあえずは楽しいパーティをする事が大事だとばかりに、胸元のケーキを除けると次のケーキを取る。
「はい、あーん♪」
「……あーん」
「おいしい?」
「うん♪」
 なんのかんので、幸せな二人であった。



イラストレーター名:ぽちお