●『予想通りなクリスマス』
大きな袋にはいっぱいのプレゼント。リボンで飾って、中身はまだ内緒。 身長ほどもある高いもみの木は、色とりどりのオーナメントを綺麗に取り付けている最中だ。 けれど、さきほどから水葵は猫と遊んでばかりいる。 「……遠野」 続きをやらないのかと、輝が落ち着いた低い声で問いかけると、猫じゃらしを持ったままの水葵が輝を見上げる。 「はい、輝さん。もう少し……待っていただけませんか?」 そうやって、にこりと微笑みを向けられると輝も弱い。 水葵がマイペースなのはいつもの事だ。 仕方ない、彼女に合わせてゆっくりやればいいかと、輝は水葵の傍に腰を下ろす。 結局、いつもこのパターン。 水葵に振り回されつつ、彼女を見守り、手助けしている。 輝は認めていないが、二人を日常的に見ている周囲からすれば、その行動は好意から出ているものだと一目瞭然だ。 水葵も、言葉でこそ伝えられてはいないが好意には気付いている。輝が、他の人より少し不器用な事にも。実は幼い時に一度、会っているのだ。 でもそんな彼だからこそ、わがままを言える。水葵にとって、素直に甘えられる相手は彼だけなのだ。 伝えたい、伝えられない。 認めていないのは、彼女が今のままを受け入れてくれるから。 そして、はっきりと自覚する事が照れ臭いのかもしれない。 気付いている、気付いていない振りをしている。 そう言わないのは、彼を思いやっているから。 けれど、自分から今の関係を変えたくないのかもしれない。 周りから見れば、さぞかしじれったい二人なのだろう。 胸にある想いは、いつかきちんと言葉にしたい。 けれどお互いに今は、この距離の心地良さにもう少しだけ甘えていたい。 今こうして、このまま二人でいるだけで幸せを感じられるから――。 「遠野、雪が降ったら……出掛けないか?」 「良いですね。輝さんは……行きたい場所がありますか?」 「そうだな……」 二人きりのクリスマス。 触れている場所から伝わる体温は、いつも通り、優しい。
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