●『玉雪開花〜雪の中の花〜』
月の光を受けて、みさをの白い髪が、白銀の輝きを帯びる。 赤い着物に散る花の模様と、髪飾りの大輪の赤い花が、彼女の赤い瞳と調和する。 みさをの姿に見惚れるようにして、昴はその彼女の隣に並べることを誇りに思った。 町がどれだけのイルミネーションに彩られようとも、やはりみさをには、和装が似合う。 「庭石は滑りやすくなってるから、気を付けて」 そう言って手を差し出し、微笑んで差し出された手を、そっと取る。 導く先は、白く雪の舞い降りる、和風の庭園。広い池と、石の橋。植えられた木々の枝に、柔らかな雪がふわりと積もって、まるで可憐な花が咲いたようになっている。 「わぁ……」 消えそうなくらいに小さな声で、けれど確かに喜びを示して、みさをが声を挙げる。 色とりどりのイルミネーションもさぞかし綺麗なのだろう。けれど、淡い灯篭の明かりの元、まさに舞うようにして降りてくる雪を見るのも、幻想的だ。 こうしてふたりで、ふたりだけでのんびりと時を過ごすというのは、昴にとって、みさをにとって、初めてのことだ。 隣で目を潤ませて雪の花を眺める彼女の表情に、昴も我知らずと微笑んだ。 庭園をゆっくりとふたりの速度で巡り、端に作られた東屋へと着く。用意されている腰掛けをみさをに勧めて、昴自身は半身を返す。 「待ってて。俺、なにか温かいものでも」 「あら」 みさをが小さな声を出すのを聞いて、昴は首を傾げながら振り向くと、彼女を見る。 「どうかした?」 「ふふ。いいえ」 袖の先を口許に当てて、みさをはなんだか嬉しそうに言う。みさをが楽しいなら、それでいい。昴は笑みを作ると、小走りで温かい飲み物をもらいに行った。 そうして、ふたりで並んで座り、淹れてもらった煎茶を傾けながら、もう一度美しい庭園を眺める。 「……こんな、クリスマスも……いい、ね」 ぽつりとみさをが言う。 ほぅ、と温かい湯気を吹きながら、昴は目を細めた。 「喜んでもらえて、良かった」 「昴は、楽しい?」 「もちろん。俺も、みさをとこうして過ごせて、すごく楽しいし、嬉しい」 「ふふ」 素直な気持ちを告げると、また小さくみさをが笑う。 「? なに?」 その顔を覗き込むと、みさをの目がいたずらっぽく光った。 「昴が私の前で……俺って言うの、初めて、ね?」 「……あ」 言われて気付く。 それだけ彼女が、昴にとって近しい存在になったということだろうか。改めてそう考えると、なんだか気恥ずかしいような気もする。けれど同時に、嬉しくもある。 「……そう、だな」 困ったように笑うと、みさをも首を傾げておっとりと微笑んだ。 「とても素敵な……クリスマス、だわ」
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