●『紳士淑女の嗜み』
美しいドレスに身を包んだ舞矢は、大切な人を待っていた。そして、しばらくして来た彼……青麗は、タキシードを着て、少し不安そうな表情をしていた。 「にぅ、タキシード……初めて着た。変……じゃない?」 青麗は、着慣れない服に戸惑っているようだ。その様子に、舞矢は微笑み、手を差し伸べる。 「タキシード姿もよく似合ってますよ。自信を持っていいと思います」 その言葉に、青麗も安心したらしい。嬉しそうに笑って、舞矢の手を取る。 「ん、舞矢ねぇさま。ドレス、すごく似合ってる。綺麗、だよ。天使さま、かな?」 今日の衣装は、どちらも舞矢が作ったものだった。それを、大切な人が着こなしている姿に……大切な人に、似合っていると言ってもらえたことに……舞矢は、思わず照れてしまったのだった。 「い、行きましょうか」 舞矢が、青麗の手を引く。その力が、少し強いことに……青麗も気づいたのだろう。その顔には、幸せそうな笑みが浮かんでいた。 フロアの中央に来ると、舞矢は足を止める。そして、青麗の方に向き直った。 「まずは肩慣らしに一曲踊ってみましょうか」 そう、舞矢に言われて……青麗は、うつむいた。その表情は、とても不安そうだ。 「えと……神楽舞、とか日本舞踊……よく踊るけど……ダンス、初めて」 まさか、青麗がダンスをしたこと無かったとは、舞矢にとっても予想外だった。しかし、微笑みは絶やさない。 「青麗君、ソシアルダンス未経験ですか? じゃあ私がリードしますので、合わせて下さいね」 「舞矢ねぇさま、よろしくお願いします、だよ。がんばって、覚えるっ」 青麗は顔を上げて、舞矢が差し出した手を取る。そして、音楽が流れ始めて……二人は、踊り始めた。 「えと……こう、で、こう……かな?」 「青麗君、なかなか上手ですね。そうそう、その調子ですよ」 青麗は、舞踏に関するセンスはあるのだ。すぐに基本のステップを身につけてしまった。 そして、曲が終わる。青麗も、すっかり踊れるようになった。そこで、青麗はとても真剣な表情で舞矢の手を握る。 「んと、お嬢さま…もう一曲。ご一緒、していただけますか?」 青麗は、彼なりに必死で舞矢をリードしようとしているのだ。 再び、曲が流れ始める。舞矢は、楽しげに笑って、青麗に体を預けた。 「喜んで。しっかり、リードしてくださいね?」
二人の舞踏会は、まだ始まったばかり。楽しげな音楽に合わせて踊る二人は、ぎこちなくも幸せそうで。 この時間が、ずっと続きますように……。そう、二人は思っていた。
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