佐伯・マコト & 秋葉原・修美恋

●『うわぁ…綺麗!』

 ショッピングモールの中はクリスマス一色だ。
 ショーウィンドウの中にはサンタクロースや真っ赤なお鼻のトナカイさんで賑やかに飾られている。
 モールの中には、家族連れや友達と遊びに来た学生達であふれかえっている。
 誰もが楽しそうにそぞろ歩いている。
 マコトと修美恋は、手をつないであちこちの店を気ままに見て回っている。手袋をしたまま手をつないでいるので、どこかもどかしい。
 二人は、目についた店に入っては品物を眺めて楽しんでいる。
 ゾウをかたどったテープカッター、カップケーキ型の穴あけパンチ。
 ファンシーな文房具は、見ていて楽しい。部屋にこんな道具があったら楽しいかも知れない。
(「でも学園には持っていけないな……」)
 マコトは苦笑しつつ手に取った品々を棚に戻す。
 歩き疲れた二人は、エレベーター近くのペアソファーに腰を下ろした。
「あ……」
 修美恋はふと上を見上げる。
 先ほどまでのアップテンポのBGMとはうって変わって、しっとりとした旋律がスピーカーから流れる。マコトや修美恋が生まれる前からあるスタンダードナンバーを、ピアノソロ用にアレンジしたものだ。
 天井に埋め込まれたスピーカらか聞こえてくる旋律は、まるで空の上から降ってくる雪のように二人を包み込む。
 目を閉じた修美恋は聞き取れないくらいにかすかなハミングをする。マコトの前であっても口数の少ない修美恋が、歌とはいえないまでもメロディーを口ずさむのは初めてのことだ。
 マコトは、彼女のメロディーがもう少しだけ聞こえるようにと、息を潜める。
 マコトも、修美恋と同じように目を閉じる。手袋越しの修美恋の温かさや柔らかさ。そして優しく透き通った修美恋のハミング。
「……ん」
 修美恋はマコトの視線に気付くと、はにかんだ笑みを浮かべる。頬をかすかに染めてマコトの瞳を見返す。
「行こうか?」
 マコトは立ち上がる。修美恋はソファーに座ったままマコトを見上げる。
「どうしたの?」
「あのね……その」
「……行こう」
 マコトはつないだままだった手を離す。手袋を外して、素手を修美恋に差し出す。
「うん!」
 修美恋は元気よく立ち上がってマコトの手を握りしめた。
「まもなく、クリスマスイルミネーション点灯式を行います。お急ぎでない方はぜひお立ち寄りください」
 館内放送が流れる。
 二人は顔を見合わせると、少しだけ早足になって歩き出す。
 ショッピングモールの中心の広場には、大きなクリスマスツリーが設置されている。
「3、2、1、点灯!」
 その場に集まった人々のカウントダウンに合わせて、イルミネーションが一斉に灯る。
 歓声ともため息ともつかぬ声が、見ている人々の口から我知らず漏れる。
 マコトと修美恋は、ここに集まった一人一人が灯りを持ち寄ったかのように光を放つツリーに見とれ、歓声を上げる。
 色とりどりのイルミネーションの下、二人の手は、かたくつながれていた。  



イラストレーター名:杜乃