●『聖夜の奇跡〜holly night〜』
やわらかなソファとクッションの感触が、何故か落ちつかなくて、辰房はさっきから何度も座る位置を変えていた。 普段なら、こんなことは無い。 隣にはいつも蛍がいたし、2人で座ればこのソファはぴったりだったのに……。 「……何、やってるんだろう……」 思わず呟いてしまってから、辰房は思っていた以上に、緊張しているのを感じた。 2人で過ごすクリスマス、初めてのクリスマス。 そして、蛍は先ほどプレゼントの用意が有ると言って、出て行ったままだ。 残された辰房は緊張しながらも、焦がれるような思いで、彼女が出て行った扉を見つめていた。 とんっ、とんっ。 控えめなノックの音にも、過剰に驚いてしまう辰房。 「おぅ、待ってたぞ……ってえぇー!!?」 緊張を隠し、平静を装おうとした彼の努力はあえなく粉砕された。 「じゃ〜ん、どう、似合ってるかな」 扉を開けて現れた蛍は、特別な衣装を身に付けていた。 赤い生地に、白いモールの飾りのついたサンタ風のドレス。 クリスマスといえば定番ではあるが……肌の露出が辰房の予想よりもかなり多かった。 ゆっくりと、歩いてくる彼女に向かって、辰房は何とか声を絞り出す。 「お、おぅ……に、似合ってる……」 ソファの上で、彼女を見たまま動けなくなっている辰房に蛍が微笑む。 「ふふ、そうでしょう♪ で、プレゼントはね」 蛍は彼のすぐ側で足を止め、体を折って辰房へ顔を近づける。 長い髪を梳き上げる彼女の目は、悪戯っぽく笑っている。 「私で〜す。受け取ってね辰房♪」 「って何ー!?」 両手を広げて飛び込んできた蛍を、辰房が受け止める。 しかし勢いを殺しきれずに、彼女に床に押し倒されるような格好になってしまった。 「つぅ〜蛍、お前なぁ〜」 「ごめんごめん。で、受け取ってくれるかな?」 突然の出来事に目を白黒させる辰房のすぐ目の前に、蛍の顔が迫る。 さらりと、流れた髪が一房、彼の顔にかかった。 「……こんな、可愛いなサンタがプレゼントなら断るわけにはいかないだろ」 肘で体を起した辰房が、蛍の目を見つめ返す。 「ふふ、そうこなくっちゃね♪」 片手を伸ばして、辰房が蛍の肩を抱く。 「愛してるぜ、蛍……」 蛍も両手で彼を抱きしめる。 2人の距離が限りなくゼロに近づいていく。 「私もだよ、辰房……」 囁くような彼女の言葉ごと飲み込むように、2人の唇が重ねられた。 互いの体温を感じながら、2人は互いを抱く腕にゆっくりと力を込める。 初めてのクリスマス、2人の聖夜に幸多からん事を……。
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