●『クリスマスなのですよー♪』
黒い瞳をしばたかせ、法螺乃は目の前の少年を見た。 青い髪と瞳を持つ少年――クゥは、なぜか法螺乃の上に乗っかっている。 「……不覚、背後を取られるとはな」 「え、えへへ」 苦笑する法螺乃に、申し訳なさそうな笑顔のクゥ。 さて、なぜこんなことになったのか。 事の発端は少し前に遡る――。
「……くりすます、とは一体何なのだ」 「え?」 何やら街が賑やかになっているが、と心底不思議そうに首を傾げる法螺乃。 「えっと、ほんとに知らないの……?」 尋ね返すクゥに頷いてみせると、何やら固まってしまった。 世間から隔絶された山奥で生まれ育った法螺乃は世情に疎い。もしかしたらあまりにも常識的なことなので、かえって説明し辛いのかもしれない。 「……調べるか」 呟き、辞書を取り出してページを開くと、すぐに目当ての項目は見つかった。 「ふむ……なるほど。キリスト教の宗教行事……。 日本ではそれを取り入れて……何故か親しい人と楽しく過ごす1夜になっているわけか」 どこかどうしてこうなったのか。 さっぱりわからず、法螺乃はまたも首をかしげたのだった。
一方、クゥの頭の中はぐるぐるしていた。 すごく楽しみにしていたクリスマス。 いつも以上に沢山甘えたい。大好きな法螺乃に撫で撫でしてもらいたい。二人っきりの甘い時間を過ごしたい――そう思って、クリスマスプレゼントも一生懸命考えて選んだのだ。 (「法螺乃、喜んでくれるかな…喜んでくれなかったらどうしよう…渡すの少し不安だな」) そんな風に期待と不安に揺れながら迎えた当日……まさかクリスマスそのものを知らなかっただなんて! (「ちゃんとこの時計使ってくれるかな? 気にいってくれるかな? けど、それ以前に……クリスマスのこと知らなかったなら、迷惑かな?」) こっそり隠し持ったプレゼントを握る手に力がこもる。モジモジしていては悪い考えが浮かんでくるばかりだ。だから。 (「ゆ、勇気を出して、わ、渡すのです!!」) 「法螺乃!」 「ん?」
――そうして勇気を出した結果、勢い余って押し倒してしまったというわけである。 説明するのも恥ずかしく、クゥは照れ笑いでピンクの包装紙を差し出した。 「……む、私に贈り物か? 俗に言うクリスマスプレゼントか」 こくこくと頷くクゥに断って、リボンをほどく。中から出てきたのは時計だった。 懸命に選んだことを窺がわせる素敵なデザインに見惚れていた法螺乃は、ふとクゥの表情に気がつく。 「ふふ、そんなに心配そうな顔をするな。ありがたく受け取らせてもらう」 一気に明るい笑顔になったクゥの頭を撫でながら、今度は法螺乃が表情を曇らせた。 「私も何か用意すべきだったな。すまない」 「そんなことないのですよ! 法螺乃の喜んでくれた顔を見るだけで幸せなのです〜♪」 そうか、と呟く法螺乃。 今度こそ一緒に笑いあい、二人は楽しい時を過ごすのだった。
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