●『†~協奏~†..絆の音色..』
ふわふわと雪の舞い落ちるクリスマス・イヴ。 フュリアスは街灯りを見下ろす丘の上を一人、訪れた。足元にはすでに薄っすらと雪が積もって、地面は白く染まり始めていた。 大切そうに抱いていたヴァイオリンケースを、濡れないように木に立て掛けて置く。きょろきょろと辺りを見回して人が居ないのを確認してから、そっとイグニッションカードを取り出した。 「イグニッション……!」 ふわり、とフュリアスの衣装が雪のように真っ白なドレスに変わる。ヴェールが風になびき、わずかな装飾がフュリアスの姿を引き立てていた。 そして、すっと現れるもうひとつの人影。 黒いドレスに身を包んだスカルロード、ティアマリアだ。 「ティア、Merry Christmas……」 ティアマリアの体温のない手を握って、ほわりと優しく微笑むフュリアス。 言葉なんてなくたって、二人でこうして過ごしていられることが、フュリアスは幸せだった。しばらく、見詰め合う静かな時間を過ごしてから、フュリアスはあっと思い出したようにヴァイオリンケースを持ってくる。 「ね……ティア、これ憶えて……る?」 ティアマリアはヴァイオリンケースを受け取ると、大事そうにケースを撫でてから蓋を開けた。中から控えめに輝きを放つヴァイオリンが姿を現す。 「私に出来……る限り手入れし……てたか、ら音は大丈夫だと思……うけど……」 少し、自信がなさそうに目を伏せるフュリアス。けれど、ティアマリアは大丈夫、と言うようにヴァイオリンを取り出して、流れるような動きで軽くメロディを奏でて見せた。 驚いて、目を見張る。 知性を失ってしまっているはずのスカルロード。もしかしたらフュリアスの言葉にただ反応して、頷いているだけなのかも知れない。それでも、嬉しい。 「ティア……うぅん」 軽く首を横に振って、泣きそうな顔で微笑んで、 「お姉ちゃん……!」 思わずぎゅうっと抱き付いた。 そう、ティアマリアはフュリアスの大切なお姉さんなのだ。そのフュリアスの頭を、あやすように撫でるティアマリアの真っ白な腕。 「……ん、ねぇ、お姉ちゃん……お父さん達か、ら聞いたけど……」 毎年、クリスマスには小さな演奏会を開いていたと。 それがいつも、とても羨ましくて。 だから、今年は開きたい。二人だけの演奏会。 「お姉ちゃんに、はまだまだ及ばな……いけど……私の歌も聞いてく、れる……?」 恐る恐る訊ねるフュリアスに、軽く頷いてヴァイオリンを構えてから小首を傾げるティアマリア。まるで……歌ってみて、と言うように。 「ん……ありが、とう……それ、じゃ……歌う、ね……」 フュリアスは嬉しそうに微笑んで、目を閉じてそっと歌い出した。 そのメロディに合わせて、ティアマリアのヴァイオリンが奏でられる。 二人だけのクリスマスがゆっくりと更けてゆく。 幸せなこの時間が、ずっとずっと、続きますように……。
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