●『想い出の場所でのクリスマス』
ずっとずっと長い間、二人は幼馴染だった。 思春期ゆえに、男女の違いに悩み……曖昧で微妙だった二人の距離。 その想いがやっと遂げられたのは、今年の学園祭。お互いが同じ想いでいられたこと……それが、素直に嬉しい。今は、二人並んで歩くことができる。 そんな二人が、恋人として初めて迎えるクリスマス――。 特別な夜を過ごす為に二人が選んだのは、昔からの思い出の場所。 小高い丘の上に生える大きな桜の木の下、そこからはキラキラと輝く夜景を見降ろすのにも絶好のポイントだった。 「……あ、紀更見て! 夜景綺麗……!」 丘の最後の坂を駆け上った美桜が、上気させた頬で紀更を振り返って指差す先には、キラキラと宝石を散りばめたような夜景。 少し遅れて上ってきた紀更も、美桜の笑みに釣られて微笑む。 持ってきたキャンドルに火を灯して、少しだけクリスマスムードを演出。並んで桜の木の根元に腰を下ろした。二人だけの空間。呼吸の音も、鼓動の音も、全てが聞こえてしまいそうなくらい、しんと静まり返っている。 「おめぇ、小さい頃何か辛い事あると、ここに来てたよなぁ」 「その度に、いつも紀更が迎えにきてくれたね。紀更も、何かあればいつもここにいて……」 口を開いた紀更に、美桜が答える。その言葉に思わず頬を赤らめた紀更は、一瞬だけ照れ隠しのように視線を外した。 「ここに来れば、おめぇが来て……話聞いてくれてさ、すげー癒されるから」 「私も、この場所にいればきっと紀更が来てくれるって……それだけで嬉しかったから」 今度は美桜が頬を染めて、視線を外す。 同じような考えをして、同じような反応をする美桜に、微笑む紀更。 思い出されるのは、小さな頃の自分たち。何があっても、必ず相手が来てくれると信じていた。 それなのに、学年が上がるにつれて二人の距離は開いて、真っ直ぐな想いを伝えられなくて……本当は小さな頃と何も変わらなかったはずなのに、さらに距離が遠のくような気がして辛かったこともあった。
けれど、今は重なる想い。 幸せで、少し恥ずかしい。 「俺、結局昔っから美桜がいないと駄目なんだなぁ」 あの日のように、伝えられないまま後悔しないように……言葉にする。 もう二度と、離さないように。 「……ありがとな。好きだよ」 美桜の細い身体を抱き寄せて、顔を近付ける。 「私も同じ、だよ……ありがとう紀更」 美桜も紀更に顔を寄せ、微笑む。 「大好き……」 触れ合う二人の唇。 キャンドルの炎がふわりと揺れ、キラキラと輝く星空と夜景が二人を優しく照らしていた。
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