●『雪空の下、響け、二人の旋律』
「外で歌わないか?」 ミンクからの誘いだった。 クリスマスの夜に、二人で路上ライブをしよう。 その提案に、双臥は笑顔で「楽しそうだな」と答えた。世辞ではなく、真実そう思って、彼はその誘いに乗った。 二人で一緒に歌を口ずさむことはあっても、人前で歌うなんてことはしたことがない。双臥にとっては初体験で、それだけでもドキドキする。 外で準備を進めていると、風が吹いた。 双臥の髪は昼間、ミンクに切ってもらったばかりで短く、首元が寒かった。髪を後にまとめて準備を進めているミンクも寒いだろうに、彼は顔色一つ変えない。 準備がようやく終わる頃になって、雪が降り出した。 それは淡く白く街を彩って、ホワイトクリスマス。 準備が終わった。 いや、まだ最後の準備が残っている。双臥とミンクが手を繋ぐ、これで、本当に全ての準備が終了した。 一度視線を交わして、頷き合ってから、二人は同時に口を開く。 装着されたインカムから響く歌声。街を行き交う人々数人が、こちらを向いた。 最初に歌ったのは、ありきたりなラブソング。そのベタな歌詞が、二人の声によって力を得る。歌に命を吹き込むのは、歌い手自身なのだ。 ロックや、バラードや、二人はとにかく様々な歌を熱唱した。 歌えば歌うほど、二人の声が透き通っていく。それはまるで、冬の空のように。 二つの歌声を一つに重ねて、集まった観客達の前で、二人は全力で歌い続ける。 それは、ある種の主張であった。観客達に向けて、これが自分たちなのだという、ミンクと双臥からのメッセージだ。 チラリと、ミンクが笑って双臥を見た。 それに気づいて双臥の歌が一度乱れた。照れたのだ。 そういえばライブが始まる前にミンクが言っていた。 ――観客に、俺たちがラブラブなところを見せ付けてやろうぜ。 今さらながらに思い出して、双臥の頬がまた熱くなる。 だが、今度は歌声は乱れなかった。 だって、楽しいから。 この路上で、ミンクと二人で思いっ切り歌えることが、楽しくて、そして嬉しい。 双臥がミンクを見た。 ミンクは双臥にウインクを送った。 歌に聴き入る観客たちの前で、二人は飽きることなく、飽きられることなく、全てを歌いきったのだった。
雪がやまない中を、二人で歩く。 お互いに、しっかりと手を握り合いながら帰路に就いた二人の気分は、最高だった。 と、その途中でミンクが立ち止まり、空を見上げた。 つられて、双臥も空を見た。 雪が、古都を白く彩っていた。 双臥が言う。 「お疲れ様、楽しかったよ……」 「俺もさ」 ミンクが、笑った。 それから交わされる、当たり前のようなキス。
聖なる夜の幸福、二人で噛み締めて。 これからも、この幸せが続きますように。 そう願った。
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