●『ホワイトクリスマス 〜ふたりだけのばしょ〜』
窓の外は一面の銀世界だった。汚れ一つない真白の絨毯に足跡をつけて回りながら、レモンは歓声をあげる。 「かすみちゃん、かまくらを作ろう! すっごいの作るよ!」 はしゃぐレモンに、かすみは微笑んだ。 「そういえば、かまくら作りって初めてね。気合い入れてやってみようかしら」
顔を寄せて、かまくら作りの手順を記した紙を覗きこむ。 「まずは『中心を決めて円を描き、円内の雪を踏み固める』だって!」 二人で棒の両端を持ち、ぐるりと正円を描いた。そこをパタパタと踏み固めて地固め完了。 次に雪を運び、蒲鉾状に押し固めながら形を整える。これはなかなかの重労働だ。大量の雪を運び、成形し終わる頃には二人とも汗だくになっていた。温かいお茶で休憩にする。 次の作業は中のくりぬきだ。スコップを握りしめ、作業内容を確認する。 「『風向きに注意して入口を決め、入口から内部をくりぬきます』……どうして風向きに注意するんだろ?」 レモンがかすみを見上げた。かすみは考え込む素振りを見せた。 「入口から風が入ってくると寒いからじゃないかしら」 「なるほど〜」 風向きに注意して、掘り進んでいく。 「『壁が薄いと壊れやすく、厚いと中が狭くなるので注意して円形に整える』……ですって」 「ふんふん、なるほど〜」 「これくらいかしら……あっ」 かすみの声と、どすっという音が響いた。見ると、かすみが落ちてきた雪の下敷きになっている。 「かすみちゃあああ〜ん!!」 慌てて救出して事なきを得る。 「やり直しだね……ごめん」 「ううん。いいんだよ!」 壊れた部分を修復して、更に掘り進めていく。今度は崩れないように、厚さを確認しながら慎重に。 「出来たぁ!」 やっとのことでかまくらが完成した。丸く可愛らしいフォルムのそれは、どこからどうみても立派なかまくらで、二人は思わずお互いに拍手を送った。達成感が胸に広がっていく。 「お疲れ様!」 「疲れたね〜!」 互いに労い、早速中に入ってみる。レモンが小さなクリスマスツリーを取りだし、その中に置いた。 「中は割とあったかいんだね」 「うん」 ツリーを飾り小さな灯りを置けば、もうクリスマスムードは満点だ。二人で毛布に包まって話をする。もうすぐ終わる今年のこと、もうすぐやってくる来年のこと……おしゃべりは尽きない。 かまくらからは、いつまでも二人の笑い声が響いていた。
やがて空に一番星が光る頃。 二人は互いを暖め合うように寄り添ったまま、そこで眠りこんでいた。 夢か、現か。 奇しくもトナカイとそりが空を駆ける夜。鈴の音と共にかまくらの前に着地した人物が、眠りこむ二人の姿を見つけた。 赤と白の衣装を着たその人物は、幸せそうに眠る二人にふわりと毛布をかけた。 「メリークリスマス」と呟いて。
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