●『Joy to the World!』
今日は、楽しい楽しいクリスマス。
「こんなモンっすかねぃ」 壁一面をモールで飾り、一歩下がって仕上がりを確かめた志狼は、背後で料理の準備をする薫を振り返った。 「そっちはどうっすか? くんちゃん」 「……できた、ぞ」 気だるげな様子の薫だが、完成した料理を盛り付ける仕草は危なげない。薫の答えに志狼も満足して、改めて部屋をぐるりと眺めた。 見慣れた部屋も、飾りつけが終われば立派なパーティ会場だ。 薫の『マクラ』を思わせるモーラット風のオーナメント、ハート型の飾り。ツリーやリースを彩る装飾も、しっかり工夫してある。 プレゼント。料理。飾りつけ。必要なものは全部揃った。志狼が頭につけたトナカイの角の位置を直せば、丸い赤鼻の薫も三角帽をしっかりかぶり直していて。 「パーティ、始めましょーか」 「……そうだな」 笑顔で席についた二人は、まずフォークを手に取り。 ほぼ同時に、テーブルの中央に鎮座する七面鳥へと、自分のフォークを突き刺した。 「――!」 和やかな雰囲気から一転、張り詰める空気。 舌戦の口火を切ったのは志狼だった。 「くんちゃんなら、トーゼン譲ってくれるんでしょーね?」 「いやだ、断る。シロこそ、俺に譲れ」 正面から受けて立つ薫。彼も、簡単に引くつもりなどない。 フォークを持つ手に力を込めたままの睨み合い。もう片方の手を出したのは、どちらが早かっただろうか。当然、やられた側が黙っているはずもなく。 「じゃあ、力づくで奪うってコトで異議ありやがりませんねぃ!?」 「……あとで泣いても知らんから、な」 片手同士の小競り合いは、次第に足を交えた打撃戦となり。しまいに、テーブルをひっくり返し、床の上に戦場を移しての取っ組み合いに発展した。 「泣いて謝まるんなら許してやってもイイっすよ〜?」 左手で薫の口元を引っ張って変な顔にしつつ、意地の悪い笑みを浮かべる志狼。 「……うるはい、ほまえこそはやまれ」 顔を引っ張られて呂律が回っていないものの、足の裏で志狼の顔をぐりぐり踏みつけ反撃する薫。 この状況下においてもなお、二人とも七面鳥の皿をしっかり死守していたのは、さすがと言うべきだろうか。
しばらくした後、床の上に大の字になり、荒い息をつく二人の姿があった。乱闘のダメージは等しく両者へ与えられ、志狼のトナカイの角は片方どこかへ行ってしまったし、薫は三角帽子ばかりか赤鼻まで外れかけている。周囲も同様の惨状だが、七面鳥の皿はかろうじて無傷。そして、奇跡的に割れずに残ったグラスとジュースの瓶が志狼の手元近くに転がっていた。 「ひとまず休戦っすかねぃ……」 「そうする、か」 二人とも起き上がる気力はなく、床に伏したままグラスを拾い、ジュースを注いで。二人のグラスが、小さく乾杯の音を奏でた。
喧嘩するほど仲が良い友達へ聖夜の祝福を。 メリークリスマス!
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