●『first...』
偶然か意識してか、今日はクリスマス。 折りしも、昨晩から降りはじめた雪で街は白一色に染められていた。 「綺麗ですね」 「あぁ」 一日街を歩き、ようやく腕を組んで歩く事に慣れて来た頃には、日も暮れてイルミネートされた町並みが一日のうちで一番の綺麗さを見せていた。 最初は二人きりのデートという事で、照れと緊張から顔を俯かせ気味だった恋歌も、ようやく笑顔を見せるようになっている。 それは、一日居た事による慣れもあるが、なによりも儷の心遣いと笑顔によるものであった。 そんな二人の前に現れたのが、全長20mに達しようかと言う大きなクリスマスツリーである。 「わぁ……綺麗、ですね」 「あぁ……」 一目にして心を奪われる二人。 深々と降り積もる雪と、その中で淡く光るライト。 それは、日頃誰かの為にと戦う二人の為に、神が二人の為に特別に作り上げたかのような、幻想的とも神秘的とも言える情景であった。 時計の針が止まったかのように、ずっと見上げていた二人だったが、どこからともなく流れてきた『清しこの夜』を合図に、時間が動き始める。 (「今しか、ありませんよね」) 恋歌はドキドキする心を抑え、勇気を振り絞ってポケットへと手を入れる。 「こ、これ……クリスマスプレゼント、です」 緊張感からか、ややつっかえつつ、それでもしっかりと儷の顔を見てそっと小さな袋を差し出す。 「ありがとうございます」 今日一番の笑顔で受け取る儷。 しっかりとポケットにしまうと、そのポケットから小さな箱を取り出した。 「メリークリスマス♪ 私からも、プレゼントです」 「え、あっ……」 うれしさのあまり言葉にならない恋歌に、そっと微笑む儷。 それに助けられるようにしてプレゼントを受け取ると、ギュっと胸に抱きかかえる。 「……すごく、嬉しいです……っ」 顔を俯かせ、緊張感で一杯一杯の恋歌がなんとか搾り出した言葉。 何か特別な言葉と言うわけではないが、顔を真っ赤にして言うその言葉は、儷にしっかりと届いていた。 暫くして賛美歌の合唱も終わり、周囲のイルミネーションが1つまた1つと消えていく。 そんな中、儷がツリーを見上げて呟く。 「今日は本当に楽しいクリスマスになりました」 その言葉に、小さく頷く恋歌。 それを見ずとも感じた儷は恋歌をゆっくりと抱きしめると、しっかりと顔を見つめる。 「これからも沢山の素敵な思い出を、私と、作っていきませんか?」 顔を真っ赤に染めながら、小さく頷く恋歌。 それを見届けると、儷がそっと呟いた。 「愛しています。恋歌」 「私も……儷、の……こと……」 はじめて名前で呼ぶ事に一層の緊張を持ちながら、それでも目を閉じる恋歌。 ツリーのライトに照らされる中、二人はそっとキスを交わした。
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