シャローム・シュレスウィヒ & 涼宮・杏樹

●『のんびりまったりのクリスマス』

 クリスマスの日を大切な人と過ごすためにシャロームは二人だけのお茶会の席を用意していた。
 そのテーブルに座って、とても嬉しそうににこにこと微笑んでいるのは杏樹。淑やかなラベンダー色のドレスが、白い肌と高く結い上げた檸檬色の髪にとてもよく似合っている。シャロームも黒のスーツを着こなし、いつも以上に凛々しい雰囲気が感じられた。
 クリスマスらしい装いの、二人の笑顔が並ぶ。

 杏樹の為にシャロームが腕を振るうのはクグロフという名のケーキ。昨年に振る舞ったシュトーレンに続いて祖国のお菓子だ。ドイツの菓子が日本で流行しているようだけれど、クグロフ以外はなかなかお目に掛からないな、とシャロームは呟いた。
「そういえば」
 思い出したように、シャロームは肩をすくめる。
「向こうで美味いと思える料理ってソーセージくらいだな」
 父がドイツ人とはいえ、日本生まれの日本育ちで、ドイツにはほとんど行ったことがない。その数少ない記憶の中での、感想だけれども。
「そうなの?」
 杏樹が不思議そうに首を傾げる。
 シャロームは優しく笑んで頷きながら、お菓子はまた別だけれど、とレースのクロスにふわりと包まれた皿をテーブルへと運んだ。
 興味津々、キラキラした瞳で覗き込む杏樹。
 捲られたクロスの中から現れたのは、心をくすぐる砂糖の甘い香りと、香ばしい焼き色の大きなクグロフだった。桃色のハート型のチョコレートとクリームが、ちょこん、と控えめに飾られていて可愛らしい。
 杏樹は嬉しそうに歓声を上げて顔を綻ばせた。
 生クリームやチョコレートクリームで飾られたケーキのように派手さはないけれど、お茶の美味しさを一段と引き立てるシンプルなケーキも同じように素晴らしいはず。

 温かな紅茶と、優しく甘いケーキを堪能する二人を、永遠にも思えるほどにゆっくりとした時間が包み込む。蕩けるように穏やかで、温かな時間。
 幸せそうにケーキを頬張る杏樹の笑顔に、シャロームは思う。
(「これからも……ずっと二人で、一緒に過ごして行きたいな」)
 けれどもまだ少し、それを言葉にするのは早いようにな気もして。
 肝心の想いはまだ、シャロームの胸の中に仕舞われているのだった。



イラストレーター名:架神玲那