●『日常と地続きの少しだけ特別な日』
「そうむくれるなよ」 学園でのクリスマスパーティの終了後。 出かけた先からの帰りに途中下車をして、少女の実家へと立ち寄ることになったのだった。 「悪かったって。それに嘘じゃない、単に『実家に』を省略して言ったのを、キミが勘違いしただけなんだから」 つかさの里帰りに興味など無い涅雅だったが、ここまで来てしまい、しかも帰りの旅費が足りないために渋々ついてきている。 「いや、それはもういいんだけどよ……」 「?」 とはいえ、そんな事でいつまでも腹を立てているわけではなかった。 むしろ、その顔が赤いのは怒りとは反対の感情からだ。 クリスマスらしくライトアップされた通りを女の子と一緒に歩いている涅雅は、聞き返すつかさに少し恥ずかしがりながら。 「なあ……ここ、場違いじゃないか?」 そんな風に訊ねてくる。 暗い夜道に、幻想的な白と青の灯りで飾り付けられた木々が浮かび上がっている光景。 涅雅によれば、こんな所を好んで歩くのはカップルくらいなもので、だからここはいわゆる『デートスポット』だろうと言いたいようだ。 「意識したこと、なかったな。僕にとっては冬の日常の一つだったから」 顔を赤くしている涅雅の様子に少し笑顔を漏らしたつかさは、言われて初めて気付いたように言葉を返す。 「そんなもんか」 「そんなものさ。さぁ、行こう。こんなところでじっとしていたら、それこそカップルに見られてしまうよ?」 「おっ、おお」 未だに頬を赤く染めた涅雅の手を引いて、つかさは柔らかな笑みを浮かべてみせる。 (「そう、言ってないだけさ。普段なら端の方を歩いてる、なんてね」) わざわざ真ん中を選んだのは、そこが一番ライトアップが映えるから。 本当は、この景色を一緒に見たかった。 (「なんて、口に出して言うつもりはないけどね」) いつもと違う帰り道を二人で、いつも通りに歩いて帰る。 今はそれだけで十分なのだと、繋いだ手のぬくもりを感じながら微笑むつかさなのだった。
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