●『Unter der Rose』
クリスマスの夜、銀誓館学園ではさまざまなパーティーが催される。 クリスマスツリーの広場を中心にした一帯では、華やかなガーデンパーティーが開かれていた。 定番のブッシュ・ド・ノエルなど、用意されたスイーツや軽食は心づくしの趣向を凝らしたもの。 飲み物はさまざまな種類の紅茶をはじめ、温かいものから冷たいものまで各種取り揃えられている。 参加者は皆幸せそうに、聖なる夜を楽しんでいた。 賑やかな会場から少し外れて、天井がドーム型になった温室がある。 そこだけが周辺に比べて密やかな雰囲気。 室内は真冬にも関わらず、緑と花が絶えない。 中央に設置されているのは、一際色鮮やかな真紅の薔薇のアーチ。 『薔薇の下での話は二人だけの秘密』 それがアーチにかけられたプレートのメッセージだ。 妖しい色彩の花弁がほころびるその下で、今そっと秘密をささやき交わす恋人達がいた。 長い髪をうなじで束ね、背中に流した護は黒いスーツ姿。 流れる黒髪は、右目にかかる前髪の一房だけが白く染め抜かれている。 「『薔薇の下での話は二人だけの秘密』か。さて、他に話せぬ事など有ったか? 我が妻よ。……くくく、戯れ言だ」 護は少し意地悪く微笑む。 寄り添う夏輝のドレスは彼女の藍色の髪に合うダークブルー。 落ち着いた色彩の中に、リボンやレースが繊細な愛らしさを添えている。 酔いそうなほどに甘い香りが、二人の間の空気を濃密にしていく。 「旦那さま……というとすごく新鮮なの。二人だけの秘密……些細なことならば、今作っちゃうのは?」 少しいたずらっぽい夏輝の提案。 だが彼女の言葉は真摯だった。 「薔薇は再生を司る華だけど、私達の望んだ生き方で別れたとき、華如きで戻るような存在でないと思えるくらい――今この縁を、大切にします」 ひとつひとつの言葉を、まるで大切な宝物のように。 突然、夏輝の唇がふさがれる。 護の強引な口付けが止めた言葉――その続きは、護自身からつむぎだされた。 「ならば問題は在るまい、我の望む道に夏輝は必要であるからな。それとも離れるなど、想いも依らぬ程に繋がるか。……ふふ。永遠の刹那、喰らい尽くそう」 夏輝は嬉しそうに護を抱き返す。 「私はこの最高の刹那を味わい尽す――って昔の人が書いてた。なかなかに私達に相応しい思うの」 聖夜に交わした言葉は、こうして二人だけの秘密になった。
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