●『青い月の聖夜に』
クリスマスで賑わっていた街並みも、夜になり降っていた雪も止み、人通りも段々と少なくなっていく。 そんな中、駅のベンチで電車を待つ二人の姿があった。 「雪は止んだが……風が冷たいな。大丈夫か、瑠流衣?」 そう言いつつ、類は手袋を脱ぐと、瑠流衣の頬へそっと当てる。 「ん……」 突然の事に思わず目を瞑る瑠流衣だったが、添えられた手の暖かさに思わず頬を緩める。 「まったく、こんなに冷やしちゃダメじゃないか」 手から感じるひんやりとした感触に類が思わず愚痴をこぼす類を横目に、手の暖かさに満足したのか瑠流衣は微動だにしない。 「先輩の手、暖かいな。先輩と一緒ならこのくらいの寒さくらい平気だぞ?」 あまつさえ、頬に添えられた類の手に自分の手を添えると、さらに押し付けるようにしてしまった。 「まったく……」 そんな様子に苦笑しつつもしたいようにさせる類だったが、少し離れたところに自動販売機を見つける。 「あったかい飲み物でも買って来ようと思うがどうだ?」 「あ、いいね」 「なら買ってきてやるよ」 そう言うと類は手を退かすと、すぐに歩いて行ってしまう。 それを見送っていた瑠流衣だったが、ふと一人ぼっちになってしまったかのような錯覚を覚える。 無論そんな訳は無く、すぐに類は戻ってくるのだが、その少しの間が待ち遠しい。 無性に温もりが欲しくなり彼が座っていた場所に手を伸ばすと、そこは僅かに暖かさが残っていた。 まるで、居ない間も寒くないようにと言わんばかりに。 そのぬくもりも消え、肌寒さを感じ頃になって類が両手に缶を持って帰って来た。 「お待たせ」 「ううん」 慌てて手をどかす瑠流衣。 それに気付いたのか気付いていないのか、類は先程まで座っていた場所に座ると、缶を瑠流衣に渡す。 「ほら、それだけじゃ寒いだろうし、こっちにおいで」 「え、あ、あの」 もっとくっついた方が寒くないと提案する類に、顔を真っ赤にしてあたふたする瑠流衣。 見かねた類が、少しだけ強引な手段に出る。 「ほら、寄ってくれないと、巻けないから」 それまで自分が巻いていたマフラーを緩めると、端のほうを瑠流衣へと差し出す。 首に巻いた状態で両端が地面すれすれまでくる長さとは言え、二人で使うには身を寄せ合わないとさすがに厳しい。 隙間を埋めるように移動すると、瑠流衣の首元へとそっと巻きつける。 「ほら、これで少しは寒くないだろ?」 「……もう」 観念したのか、嘆息一つして瑠流衣は類の肩へと頭を置く。 気がつけば、互いに手を握っていた。 「ねぇ、先輩……」 「ん?」 小さく呟いた瑠流衣に、最後が聞き取れなかった類が振り向く。 「い、いえ」 真っ赤になってうつむく瑠流衣だったが、意を決したのか類を見上げるようにして、そっと目を瞑る。 その意味する所は一つだけ。 「瑠流衣、大好きだ」 寒空の中、青く煌々と照らす月に見守られて、二人はそっとキスを交わした。
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