●『丸一日遊園地ではしゃいでその結果…』
「きゃあぁぁぁっ!」 「うわあぁぁぁっ!」 12月25日、クリスマス。 晴れ渡った空の下、末は千春と共に悲鳴をあげていた。 ……ジェットコースターに乗りながら。
発端は数日前、佐世保での事だった。 情報局のさなか、末から一緒に遊びに行こうと誘われた千春は、それに頷き返し……そうして2人がやって来たのは、遊園地。 「っしゃぁ! 今日はおもっくそ楽しんでやるわー!」 「じゃ、あれ行こうか♪」 いつにも増して、いやいっそ変なくらいにハイテンションな勢いの末の隣で、千春が指差したのは、この遊園地自慢の絶叫マシーンだったという訳だ。
「いやぁ、すごかったね〜」 「ああ……さすがの俺も、これは……」 へろへろした足取りでジェットコースターを後にすれば、見えてきたのはアイスのワゴン。にっと笑い合って2人はそちらへ向かう。 「そんなに重ねて落ちない?」 「すぐ食べれば大丈夫だって」 4つも重ねたアイスを片手に笑う末に、千春は愛用のデジカメを向ける。いえい、とポーズを決めて浮かべた笑顔は……ぎこちなくなっていないだろうか? 「……これ食べたら、次はあれに乗らない?」 油断すると……つい暗くなってしまいそうな末の様子に気付いているのか、それとも……。千春は笑いながら、たくさんの悲鳴が聞こえてくるバイキング船を指差す。 「千春って、絶叫系好きなんだな」 「えへへ」 ばれたかー、と笑う千春に、つられるように末も笑った。
それからも2人は遊園地を駆け巡った。ゴーカートに乗ればデットヒートを繰り広げ、コーヒーカップは極限までハンドルを回しまくり、お化け屋敷では顔を引きつらせて歩く。 「そういえばあれ、まだ乗ってなかったね」 日が暮れ始めた頃、2人は観覧車に乗り込んだ。 「……なあ、千春」 「ん? なに?」 「膝枕してくれないか?」 「またそれ〜?」 扉が閉められてすぐ、末の言葉に千春は口を尖らせる。同じようなやり取りは、佐世保でもしたばかりだ。 「もー。……仕方ないなぁ。特別だからねー?」 「さんきゅ」 やれやれと膝を叩く千春に礼を言って、末はごろんと横になる。 ……ああ。 夕焼けが、綺麗だ。
(「一瞬だったなぁ」) すぐに聞こえてきた寝息に、千春は笑いを噛み殺す。 何があったのかは分からないけど、きっと寝不足になるような事だったんだろうな、と千春は思う。尋ねるべきか気付かなかったフリをするか。なんだか隠したがっているように見えたから、そういう事にしておいたけれど。 「空元気なんて、無理しなきゃいいのに」 少しでも励ましになっているといいんだけど……そう思いながら、千春は目を細めた。不意に飛び込んできた夕日がまぶしくて……。 そのまま瞼が重くなって、千春もまた夢の中。 つられてはしゃぎすぎたかな、と思う暇すら無かった。
観覧車は、ゆっくりと動き続ける。 2人を乗せながら……ささやかな安らぎの時間で、彼らを満たしながら。
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