●『1st.X’mas』
12月、年の瀬の慌ただしさと冬の寒気が本格化してきたそんな日にお菓子作りにいそしむ2人がいた。 焼きあがったスポンジケーキをオーブンから取り出し、作業台に広げた冬流は作業の手を休めて隣を見た。 「早うできぬかの〜」 「少し待て、今クリームの正確な分量を……」 冬流は紙パックに入った生クリームの量を小まめに調べながら、銀色のボウルに移す花楓の姿をじっと見みつめる。 急かす言葉とは裏腹に冬流の姿はどこか楽しそうだ。 ようやく生クリームの量に満足したのか、花楓がピンク色の泡立て器を手にとる。 「花楓、ほれ早うせんか」 「もう少しで出来るから待ってな」 急かされた花楓が急いでスイッチを入れると、銀のボウルの中で乳白色の液体から雲のようにやわらかな生クリームが出来上がった。 ボウルごと白い生クリームを受け取った風流は取り出しておいたスポンジに生クリームを広げ、一面白いクリームに覆われたスポンジに刻んでおいたイチゴをたっぷりと載せる。 真剣な表情でイチゴを並べる風流の横顔を今度は花楓が見つめていた。 (「……料理してる冬流初めて見た。何か新鮮……」) イチゴを並べ終え、真横からの視線に気付いた冬流が花楓へ顔を向ける。 「俺ばっかりやなしに、手伝ってや」 「あ、うん。そうだな」 今度は2人でスポンジをロールケーキのように丸め、筒状になった所に上からたっぷりと生クリームを乗せる。 風流が手にしたフォークで生クリームに木目を刻み、花楓がその上から飾りを乗せた。 仕上げに2人で砂糖菓子のサンタクロースを乗せる。 お皿の上で出来上がった白いブッシュドノエル。 手作りのケーキを囲んで2人は早速フォークを手にすると、一口食べる。 「美味いか?」 どこか不安そうな花楓が隣に向かって尋ねる。 「美味くて当然であろう。2人で心をこめてつくったのやからな」 にっこりと微笑みながら風流は答えると、もう一口ケーキを頬張る。 花楓もその様子にケーキを切り取りながら微笑み返す。 やがてどちらからとも無くフォークの手を止める2人はじっと見つめ合う。 「「メリークリスマス」」 聖夜の2人は静かに微笑むのだった。
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