●『想いが通じ合った聖夜』
「ベルティナット。星を……見に行かないか」 アーネストはその一言に一年分の勇気を費やした。ただ純粋に、屋上から見る星が綺麗だと聞いた、だから誘っただけなのに。片想いというものを抱えると、自分の挙動、周囲の視線、相手の仕草、言ってしまえば自分を取り巻く世界の全てが、襲い掛かるように激しく胸を打つものだ。考えすぎなのはアーネスト自身よく分かっているつもりだったが、屈託無く笑うベルティナットを見てはまた訳の分からない気持ちが自分の中に渦巻くのを感じていた。 当のベルティナットは楽しげに、バスケットに入れた紅茶のポットとお手製サンドイッチを広げている。 「本当、綺麗ですわね〜」 持ってきたキャンドルを灯す前に、満天の星空を眺める。ベルティナットは感嘆の溜息をこぼし、白い息が夜空に儚く解けた。 「そうですわ、サンドイッチ。よかったら召し上がってくださいね」 「ん、ああ……」 紅茶で満たされたカップとサンドイッチを手渡され、二人の指が触れ合う。その感触にアーネストの返事はどこかぎこちなくなり、不自然に思われなかっただろうかとまた思考が一人歩きを始めた。
「あ……。美味い」 「お口に合ってよかったですわ〜」 ぎこちなさを隠そうと、サンドイッチをひとかじり。これがまた美味しくて、思わずアーネストの口から素直な感想が漏れる。照れ隠しで食べたのが申し訳ないくらいに。褒められた事を喜んだベルティナットは優しく笑っている。その様子に安堵したのか、あとはいつも通りに言葉を交わすことが出来た。 「晴れてよかったですわね〜、空気も澄んでて綺麗ですわ〜」 「そうだな……。月もくっきり見えている」 真冬の空気をまとったベルティナットを、足元のキャンドルがあたたかく照らしている。か細い炎はゆらゆらと揺れながら、二人の間に影と光を作る。 「寒くなってきましたわね〜」 「ああ……」 キャンドルの炎に両手をかざし、指先を擦り合わせてベルティナットが呟いた。その瞬間。アーネストの手がベルティナットの手に伸びる。 「あの……どうしましたか〜?」 ベルティナットが驚くのも当然だろう。何よりアーネスト自身がこの光景、というか自分がした事に驚いている。冷たくなったベルティナットの手をしっかりと握り、更にはこんな事まで口に出してしまったのだから。 「……好きだ」 手を取るつもりも、ましてや打ち明けるつもりもなかった。けれど、愛しく思う気持ちは気づかぬうちに挙動に、声になっていた。 「……嬉しいですわ〜」 不意に、アーネストの頬にひやりとした感触が走る。ベルティナットが自分の頬に鼻先を寄せ、口付けをしたのだと気づくのに、アーネストは若干時間を必要とした。 受け入れて貰えた嬉しさと、驚きと、上がってゆく体温。色々な気持ちがないまぜになったまま、アーネストはベルティナットを抱き締めた。細い体が寄り添い、照れ臭さは二人分のぬくもりに変わる。
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