●『始めてのHolly Night』
粉雪舞うクリスマスの夜。 学園内にそびえ立つ巨大なクリスマスツリーは、甘いひと時を過ごそうとするカップルにとって、絶好のデートスポットだ。 婚約者同士である嘉月と裕也の姿もここにあった。 嘉月にとって日本で過ごす初めてのクリスマス。裕也にとっても、恋人と過ごすクリスマスはいつもと違う特別なものだ。 「んとねっ……がんばって作ったんだよ」 めいっぱいおしゃれして現れた嘉月が恥ずかしそうに差し出したのは、赤と白の縞模様のマフラーだった。自分の髪と瞳の色を思わせる色合いに、裕也は思わず頬を緩める。 そして、一瞬遅れて言葉の意味に気づいた。 「……てことは、これ、手作りなのか?」 「う、うん。グランマに教えてもらって、上手くできたか、ちょっと自信がないけど」 「すごく上手いよ!」 「そ、そうかな……?」 「もちろん! 自信持てって」 手編みのマフラーに憧れていた裕也は拳を握って力説する。 心の底から嬉しそうな表情に、嘉月はようやくほっとしたように肩の力を抜いた。 大好きな裕也のために、愛情をこめて一生懸命作った初めてのマフラーだ。喜んでもらえて本当に嬉しかった。 「じゃあさっそく……」 「待って。私がしてあげる」 「お、それじゃ頼もうかな」 そう言ってマフラーをかけてあげようとする嘉月だったが、 「……大丈夫か?」 「うー、あとちょっと……!」 30センチ以上も身長差があるため、なかなかうまくかけることができない。 こっそり屈もうかとも考えた裕也だったが、がんばる姿がかわいいな、と思わず見つめてしまっていた。 そうとは知らない嘉月は、ほとんど爪先立ちの状態で背伸びをする。するとようやく届いた。勢いに任せて、一気にくるりと首に巻きつける。 「やった、できた……わ!?」 「おっと!」 達成感に気を抜いた瞬間、よろけた恋人を裕也は危なげなく支えた。嘉月もあわててしがみつく。 つまりそれは当然、大好きな人の腕の中というわけで。 一気に頬を染める嘉月。その可愛らしい反応に、裕也は思わず、ぎゅうっと抱き寄せて、 「へへ、ありがと嘉月。暖かいぜ。……これ、お礼!」 「!」 自分の額から、ちゅ、という音がして、嘉月はますます赤くなった。逃げ出したくなるほど恥ずかしい。 ――けれど嘉月は逃げ出さなかった。その代わりに、 「……じゃ、支えてもらったお礼」 ちゅ。 思いがけないお礼に、裕也もまたほんのりと赤く頬を染めて、幸せそうに笑った。 「最高。本当に幸せ」 「私も」
ふわふわと暖かいのはマフラーだけじゃない。 抱きしめ合う恋人の存在こそが、なによりのぬくもり。 クリスマスツリーのイルミネーションが、2人の赤い、幸せに満ちた笑顔を照らしていた。
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