湯城・愛美 & アーバイン・シュッツバルト

●『聖夜の密談』

 誰もいないはずの聖夜の学校の屋上。
 だからこそ、二人きりの秘密のデートには最適だ。
 しかし、愛美の表情は硬い。
 ロマンチックな話題より身近な、戦争の話題になってしまったからだ。
「……やっぱり、私は戦争が嫌いだよ。アーバイン」
「それが正常だと思いますよ。戦争というのは損失でしかない。数値でも、心情でも。喜ぶのは一部の狂人だけだとは思います」
 日頃から戦争が楽しい、と公言しているアーバインは冷静な表情を崩さない。
 愛美はそんなアーバインを見つめ、目を伏せる。思い出すのは悲惨な戦場。
「人が死んでいくんだ。ひょっとしたら喧嘩ぐらいで済んだかも知れない敵も、覚悟なんて全ッ然固まって無くて、ただ少しおっちょこちょいなだけだった仲間も……全部あの熱に押し流されていく」
 そして履き捨てるように続ける。
「……嫌いだ。大っ嫌いだ」
 黙って聞いていたアーバインが一言、私も血が好きなわけではありませんがね、と漏らす。
「あれだけ申しておいて説得力はありませんが、戦争は私にとっては手段でしかない……ま、戦争狂いはスケープゴートという奴です。愚痴も無茶も綺麗に消してくれる、ね」
 愛美は視線をあげて、アーバインの瞳を覗き込んだ。
「じゃあ、お前。本当の所はどうなんだ?」
 肩をすくめ、少しだけ笑みをたたえてアーバインは囁く。
「貴女が戦争と闘争の女神よりもチャーミングになったら、私も変わるかもしれませんよ?」
「……性悪な恋敵だな。でも鋭意努力するよ」
 愛美は、ほんのりと頬を染めて拗ねた顔をした。
 そんな愛美を見て、嬉しそうにアーバインはバッグから一本のびんを取り出す。
 スパークリングワインを模した、アルコール度数ゼロの炭酸飲料だ。
「乾杯を。お互いのもう一つの側面を知りえた記念に、ね」
 その時、二人を祝福するように空から真っ白な雪が降ってきた。
 アーバインと愛美は同時に空を見上げて、声を合わせてもう一度繰り返す。
「乾杯」



イラストレーター名:月蜥蜴