●『初めてのキス』
空の主役が太陽から月と星に入れ替わると、一気に寒さが押し寄せてくる。 公園を吹き抜ける冬の風は、道行く人の足を早めさせ白い息を吹き散らす。 ぼんやりとした街灯の下、ベンチでは白いマフラーが風に揺れていた。 長いマフラーは2人の首を巻いてもまだ余る程だ。 夜の寒気も風の冷たさも、ベンチに座る2人はまるで気にする様子が無い。 「遊園地ではひどい目に会ったなー。あんなにループがきついなんて」 「すごいお顔でしたよ?」 頭を掻きながら苦い顔の翔を円が覗き込んで笑う。 「でも、ゲームセンターも楽しかったよね」 「ウサギさんは強敵だったみたいですね」 「だって、円が欲しそうだったから……」 小さなウサギのぬいぐるみを弄びながら、クスクスと笑う円に翔が照れ笑いを浮かべた。 笑う円の横顔を見ながら翔がそっと彼女の手に自分の手を重ねる。 「また二人で来ようね」 急に触れた手に少し驚いた円だったが、緊張に震える翔の手を優しく握り返す。 「はい……また絶対っ」 そして翔に手を引かれるままに円はベンチから立ち上がり、2人は夜の公園を歩く。 夜の暗さに気が付かなかったが、公園の中には意外に人が多い。 2人の周りではたくさんのカップルたちが肩を組んだり、抱き合ったり、不意にそんな他のカップルと目が合ってしまうと2人は揃って下を向いてしまう。 公園の中をしばらく歩き、翔は周りを見渡して人気が無いことを確認して、街灯の下で足を止めた。 マフラーと手で繋がっていた円もそれに合わせて足を止める。 頼りなげな明かりの中で向き合う2人、真剣な表情で翔が真っ直ぐに円を見つめる。 「キス……しても良いです?」 じっと翔の目を見ていた円は、頬を朱に染めながら小さく頷いた。 「素顔のお兄ちゃんが良いので眼鏡はオデコですよ」 円の手が翔の眼鏡をそっとずらすと、翔の腕が円の体を優しく包みこむ。 ゆっくりと2人の顔が近づき、やがて目を閉じた2人の唇が触れ合った。 抱き合い熱い口付けを交わす2人に白い雪が舞い降りる。 ただ静かに、聖夜の雪は2人を包み込んでいった。
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