●『Special Christmas』
静かなクリスマスの夜、チラチラと小雪の降り始めた頃――。 二人は涼のアパートでまったりとしたクリスマスを過ごしていた。狭い部屋に鎮座したコタツが二人の身体を優しく包み込んでくれる、まどろみたくなるような静かな時間。 他愛もないことで笑い合い、今年の1年間を振り返ってみたりして……千歳手作りの美味しいケーキを一口一口、味わいながら食べ終え、涼が言う。 「去年のクリスマスは大変だったよな」 大きな大きな三段重ねのケーキのあらかたを、食べさせられたことを思い出したのだ。時間制限つき。もちろん、食べ切れなかったら罰ゲームも付いていた。 「姫くん頑張ってくれたやろ〜」 嬉しそうに笑う千歳。作ったケーキをたくさん食べてもらえるほど、幸せなことはない。千歳が喜んでくれたのなら、頑張った甲斐もあるというものだ。 ただ、食べることに必死になって、それ以外の記憶がまったくない。それはそれでとても楽しかったし、構わないのだけど……今年はもう少し、恋人同士らしい思い出を作りたい。 「あの、さ」 おずおずと、少し照れた様子で涼が口を開いた。 千歳はきょとんと首を傾ける。 「去年、出来なかったことしない?」 涼の提案に千歳は、楽しそう、と相槌を打った。 去年と同じくらい楽しい思い出を、今年も作りたい。その想いは……二人とも同じ。 けれど、実際にはどんなことをすれば、思い出に残るだろう?
しばしの沈黙。
涼は意を決し、千歳の方へと勢いよく手を伸ばした。 どさりと押し倒されて、目を白黒させる千歳。胸元に飾っていた大きな金色の鈴が、ちりん、と涼しげな音を奏でる。 1年以上付き合って、押し倒されるなんて初めて……いや、1、2度はあったかもしれないけれども、とにかく涼がそんなことをするなんてとても稀なことで。 「姫く……!?」 驚いて見開いた千歳の目に、涼の顔が映り込んだ。わたわたと慌てる千歳を気にせず、涼は思い切って千歳に顔を寄せる。 「……っ」 吐息が絡まり、柔らかい唇が重なり合った。
去年は君の無邪気なわがままを聞いたから、今年は自分のわがままを――。 それは……ホワイトクリスマスの、静かな夜の出来事だった。
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