玖世・天 & 漆原・暁

●『Sono sempre accanto a te.』

 クリスマスの日、天と暁は自宅のキッチンでクリスマスのディナーを準備していた。
 大人数で楽しむ賑やかなパーティも悪くないけれど、街の喧騒から離れ、二人だけのクリスマスを過ごすのもいいものだ。手作りの料理とケーキをテーブルに並べ、穏やかな時間を感じることができる。

 料理の完成も間近、慣れない手付きでケーキに飾り付け用のクリームを絞る天の表情は真剣そのものだ。しかし、少しでも綺麗なケーキに仕上げたいと思う気持ちが、天の手を震わせる。
「かなり難儀だな」
 ケーキから視線を外すことなく、天は呟いた。
「本もいろいろ読んだし、練習もしたんだがなぁ」
「……そんなに難しい、と言うのならば代わってやろうか?」
 口を挟んだところで素直に代わるはずもないだろう、そんなことは暁が一番よく知っているのだが、暁は暁なりに気遣わずにはいられない。その想像の通りに、はふ、と溜め息を吐いた天は、気を取り直して首を横に振った。
「いや、もう少しだ。最後までやらせてくれ」
 暁が心配してくれるのは素直に嬉しい。慣れない自分よりも暁と一緒に作った方がずっと早く、ずっと綺麗なケーキが出来上がるだろうことも、天には容易に想像がつく。
 けれども、今年は自分の腕を振るいたい。彼女が美味しいとほめてくれるなら――何よりも、彼女の笑顔が見られるのなら苦労の甲斐もあるのだから。
 少しずつ、けれど確実に……飾り付けを進めていく。
「そこまで言うのならば任せよう」
 真剣な、必死とも取れる天の表情に、暁は冗談めかして言った。
「パティシエも仰天するほどの、素晴らしい出来を期待している」
 ちょっとした意地悪。偶にはこんな風にからかってみるのも楽しい。もちろん、手伝おうという言葉に嘘はないのだけれど。
 一生懸命ケーキと奮闘している天の様子を横目で伺いつつ、香ばしく焼きあがった大きなローストチキンを皿に盛り付け、テーブルへと運ぶ。
 メインディッシュは完成。あとはケーキを待つばかり。
「たまには良い所を見せたいしな」
 天の口から零れた言葉が聞こえて、気付かれないように暁は小さく笑んだ。

 どんなに時間が掛かっても、ずっと君を待っているよ。
 幸せな時間を二人で過ごすために……もう少しだけ、頑張って。



イラストレーター名:一二戻