シェルロッタ・ローエングリン & ラシェリア・グリーンアイズ

●『あの日も今日もクリスマス』

 一枚の果たし状が、ラシェリアの手にあった。
 だがしかし送り主の名前に全く覚えが無いし、第一果たし状を送られるような事をした覚えも無い。
(「街外れの、森が……指定場所、か」)
 仕方がないので、とりあえず指定された場所に向かうことにした。
 誰かの勘違いだったら、教えてあげなきゃいけないし。

 森の中、シェルロッタは待っていた。
(「上官から日本行きを言い渡された時、どれ程この日を待ち侘びた事か……!」)
 誇り高き人狼騎士であるシェルロッタ。報復する為の相手の顔を思い浮かべギリリと歯を鳴らす。
(「果たし状は出した。あいつも騎士だ、この話を受けない筈が無い!」)
 その時ガサッと音がして、そちらを見れば茂みをかき分けて一人の男が顔を出していた。
「遅かったな、ラシェリア」
 シェルロッタは冷徹な表情で言い放つ。……が。
「……?」
 ラシェリアは首を傾げていた。
(「な、何だ……!? 私を油断させる為の作戦か!?」)
 ゴクリとつばを飲み込みながら、ラシェリアの様子を伺う。
 精彩をもの凄く欠いた表情やら服装。
 バサバサの髪、寝ぼけた目! そしてボロボロのコート!
 真新しいのはそのマフラーくらいではないか!?
「……きっ、貴様! それでも騎士か!!」
 あまりにひどい。思わず叫んでしまった。だが当の本人は相変わらずぼーっと突っ立っている。しかも。
「……誰だ?」
 シェルロッタはあんぐりと口を開けて固まる。
(「……何? ……私を、覚えていない、だと……?」)
「アイゼナハの養成所で訓練生時代を共に過ごした私の名を忘れたと言うのか貴様は!?」
 ラシェリアは相変わらず首を傾げている。
「シェルロッタ! シェルロッタ・ローエングリンだ!!」
 やっぱり首を傾げている。
 やがてシェルロッタはわなわなと震え始め……。
「……もういい。貴様がそう出るというのならばこちらにも考えがある」
 ジャキッと音がして、シェルロッタはアサルトライフルを構えた。
(「……いや、街外れ、とは、いえ……銃は、拙いんじゃ、ないか」)
 よく分からないけど。逃げた方が良さそうだ。
 シェルロッタに背を向けて、ラシェリアは全力疾走!!
「フラガラッハ(報復者)の名にかけて、貴様に制裁を!!!」
 何やら叫ぶ声と銃声を背に、ラシェリアは逃げる。
(「訓練生時代のクリスマス、貴様に告白して振られたのを今でも覚えている! だが口が裂けてもそれは言わん!」)
 ラシェリアを追い、ライフルを放ちながら。
 乙女心というものは、複雑である。



イラストレーター名:一二戻