水瀬・雪白 & 那智・りおん

●『拳で聖夜に語り合うサンタ(甘党)』

 それは、聖なる夜のこと。
「僕はサンタがいいな」
「チョコのプレートはボクですよっ」
 雪白とりおんは、用意したクリスマスケーキを前に、にこにこと言う。
 可愛いデコレーションのケーキの上に乗っているのは、チョコレートのプレートとログハウス、それからサンタクロースと雪だるまの砂糖菓子。どれもこれも、甘党であり可愛いものが大好きなふたりには、魅力的なものばかりだ。
「雪だるまは僕にちょうだいね?」
「えー! じゃあボクはログハウスが欲しいです!」
「えぇっ!」
 微笑ましいやりとりが、次第に剣呑になっていく。とは言えども、幼いふたりのこと、しかも争いの原因がケーキのデコレーションとなれば、傍から見ればそれでも微笑ましいのだが、ふたりはあくまで真剣だ。
 しばらくやりとりが続いたあと、ふたりはどちらからともなく立ち上がった。
「例えりおんくんでも、ログハウスは譲れない……!」
「相手が雪白くんとは言え、雪だるまの親子はボクのものです……!」
 仲のいいふたりの間にも、譲歩できない一線があったらしい。
 きりりと睨み合うと、交渉は決裂。そして、戦いの火蓋が切って落とされた!
「りおんくんにはプレートがあるじゃない!」
「それを言うなら、雪白くんだってサンタで我慢して下さい!」
 ぽかぽかとやりあうこと、数十分。
 お互いにボロボロになって、ふたりは床に倒れ込んだ。
 しばらくぐったりとしていたふたりだったが、少しするとなんだかお腹の底から笑いがこみ上げてきて、顔を見合わせると耐え切れなくて、噴き出してしまった。
「あははっ」
「ははははっ」
 ひとしきり笑うと、この勝負の始まりと結末に、今度は苦笑が浮ぶ。
「……なかなかやるね、りおんくん」
「……雪白くんだって」
 そっとりおんが拳を突き出すと、雪白はそこに自分の拳をぶつけて、それからまたふたりで笑った。
 そのあとは、お互いの体力が回復するまで待ってから、なにごともなかったかのように仲良くふたりでケーキを分けて食べた。問題のデコレーションは、友達のためにお互いが少しずつ妥協した。
「おいしいっ」
「甘ーいっ」
 頬を緩ませてにっこりする、雪白とりおん。
 それから、りおんが困ったように眉を下げて言った。
「まぁ、楽しいクリスマス、だったね」
「そうですね」
 雪白も頷く。
 喧嘩するほど仲が良いとは、きっとこういうことなのだろう。悪戯っぽい笑みを浮かべて、ふたりは声を揃えた。
「メリークリスマス」



イラストレーター名:土方