●『・・・今日だけ、だから。』
色とりどりのモールが飾り付けられた体育館。そこに流れるのは定番のクリスマスソング。学園内で催されているクリスマスパーティーの一角で、ウィリアムは傍らに立つカリュアを見下ろした。 白いサンタガールという、いかにもクリスマスな衣装に身を包んだカリュアだが、館内を見渡すその表情は楽しんでいるのかどうかよくわからない微妙なものだ。 こんな時に気の利いた言葉をかけてカリュアを笑わせたりできたらいいのにとウィリアムは思うが、残念ながら何も浮かんではこなかった。 なにしろ、ウィリアムが女の子をパーティーに誘うのはこれが初めてなのだ。どうすればいいかなんて、まるでわからない。 カリュアがクリスマスを一人で過ごすと知ってウィリアムは彼女を誘った。 感情表現が苦手なカリュアが実は寂しがりだということを知っていたから、彼女の寂しさが紛らわせられればいいと思ったのだ。 けれど、今、それがちゃんとできているのか、ウィリアムには自信が無い。 (「俺なんかで本当にコイツは良いのかねぇ……」) そんなことがウィリアムの頭をよぎる。と、その時、トンと何かが胸に当たり、何かと見ればカリュアが頬を寄せていた。 表には出ていないかもしれないが、ウィリアムに誘ってもらえてカリュアは嬉しかった。 最近は義兄ともあまり会えなくて人肌が恋しい。 そんな時に一緒にいてくれるウィリアムが嬉しかった。一緒にいるだけよりも、もっと近寄りたかった。 (「ウィルは、本当に頼りになるし……一緒にいると安心するし……。これからも仲良くして欲しい」) そんな想いでウィリアムの背中に腕を回す。 「ごめん……少しだけ、ぎゅっとしててくれないか?」 最初に謝ったのはこんなことを言われてもウィリアムは困るだろうと思ったからだ。 事実、突然の事態にどうすればいいのかまったくわからず、ウィリアムは棒立ちになっている。こんな時にすぐに反応できるような性格ではないのだ。 しかし、望まれていることを放っておける性格でもない。 (「カリュアがそうすることを望んでいてくれる、のなら。ほんの少しだけ……頑張って、みるかな」) 「……今日だけ、だから」 そう言っておずおずと壊れものに触れるようにカリュアの体に腕を回した。 両腕ではなく片腕だけだが、ウィリアムにはこれが精一杯だ。 いや、片腕ですら、聖なる夜を祝う日だから、カリュアが望んでいるから、そんな理由がなければ出来はしない。 赤くなった顔を上に逸らしてカリュアを抱きしめながら、ふと思う。 (「コイツって、こんなに背、小さかったっけ…………?」) 頬をすり寄せてくるその位置はウィリアムが思っていたよりも低い。 けれど、確かめようにもこんな状況で顔を合わせる度胸は無くて。 腕の中でカリュアが浮かべた微笑みをウィリアムは見逃した。
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