御門・悠輝 & 唐木・莉玖

●『穏やかで、あったかな二人の時間』

 窓から外を見ると、雪がちらつき始めていた。日もすっかり暮れ、光る街灯を受けた雪は煌めいてとても綺麗――だけど、見ているとどうしても寒くなってくる。
 やっぱり、暖かい方がいいな。
 隣に座った悠輝の部屋で、エアコンとコタツ、二つの暖房に包まれながら、莉玖は置かれたミカンの皮をむく。
「ありがと悠輝さん。部屋に呼んでくれてさ」
「いいのよ。もう少し、話したかったしね」
 唐木と同じようにミカンを手にしながら、悠輝は微笑む。本当なら、それぞれの家路につくはずだったクリスマスパーティの帰り道。折角だから温まっていけばいいと、悠輝は唐木を自分の家に誘ったのだった。
「そういえば、まだちゃんと言ってなかったわね」
「ん?」
 むいたミカンをつまむ唐木に、
「メリークリスマス、唐木」
 笑顔を向ける悠輝。唐木も表情を綻ばせて、
「メリークリスマス、来年もよろしくな!」
 そして最後に、くしゅん! とくしゃみを一つ。
「もしかして……また風邪?」
 少し前にも、唐木が風邪をこじらせたことを思い出したのだろう。心配そうに訊く悠輝。
「んー、そうなのかな……?」
「ちょっと熱、測ってみよっか」
 唐木の顔に、悠輝の細い手が添えられ、
「動かないでね」
 ぴたりと、二人の額が重なり合う。悠輝の金髪が一房、流れるように落ちて、唐木の視界を区切った。その先には、少し赤くなった自分を映す悠輝の青い瞳。
「んー……熱はないみたいだけど、暖かくしといた方がいいね」
 ホットミルク、入れてあげる。悠輝が立ち上がって冷蔵庫を開ける。
「折角のクリスマスに風邪ひいたなんて、あんまり笑えないし」
「じゃあ、ちょっと甘めでよろしく」
 リクエストにはいはいと頷きながら、悠輝は慣れた手つきてホットミルクを用意し、唐木の前に差し出す。
「ありがと」
 ゆっくりとホットミルクを口にする唐木。その中で、甘みを引き立てるシナモンの匂いが微かに香った。
「美味しくて……落ち着くなぁ……ふぁ……」
 今度は、最後に欠伸が混ざった。紗がかかったように頭の中がぼやけて、瞼が自然と落ちてくる。昼間のパーティーで少し疲れたのかもしれない。
「何だったら寝ちゃってもいいよ。唐木の寝顔を見るのも、楽しいもの」
「そう、かな……?」
 応える声はか細い。一度ぼやけた思考はみるみる内に、降り積もる粉雪の中に埋もれていく。お邪魔していきなり寝るのも不躾な気がするし、寝顔を見られるのは少し恥ずかしいけど――悠輝さんの傍は、何だか落ち着くから――。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな……」
 ぱたんと、軽い音を立てて唐木の体が横たわる。
「うん。ここなら、幾らでも寝ちゃっていいから」
 さっきは頬に添えられた指が、今度は愛し気に彼女の髪を撫ぜる。
「おやすみ、唐木」
 優しい悠輝の言葉に誘われ、唐木の意識は、ほの暗い闇の中へと溶けていった。



イラストレーター名:ただのさとる