●『パイ投げもいいけどケーキもね』
クリスマスツリーのライトが、音もなく点滅する。 ベルメルが飾り付けをしたそのツリーには、モールと一緒に蛇が、ベルと一緒に髑髏が飾り付けられていた。時折、まるで呼吸をするように髑髏の目の奥のライトが光る。 和暁は、一緒にクリスマスパーティに参加できなかった分をこの二人きりのクリスマスで楽しもうと胸を躍らせていた。 「クリスマスパーティ、一緒に参加できなくてごめんねぇ」 申し訳なさそうに謝ると、ベルメルはにぃっと笑った。 「パーティに参加できなくても、今はボクが和暁を一人占めしてるからいいの~」 目を細めれば、目の下に浮いたクマが際立つ。愛らしいその笑顔に、和暁はほわんと幸せな気分になった。 「パーティにはいっぱい人がいるけど、ここなら誰にも邪魔されないもんねぇ」 ベルメルは楽しげに言う。うんうんその通り。和暁は頷く。みんなでわいわいやるクリスマスもいいけれど、こうして二人きりで過ごすクリスマスもまた格別の楽しさがある。 このささやかなパーティのために、和暁は大きなホールケーキを注文した。それを2つに切り分けなかったのはもちろんわざとだ。 和暁はフォークで一口分、ケーキをすくい取る。 「ベルきゅん! はい、あ~ん」 「えへへ、ありがと~。あ~ん」 ベルメルは大きな口を開け、それをぱくりと食べた。今度は交代。ベルメルが和暁からフォークを取り上げる。 「はい和暁も、あ~ん」 「んむ。どもー」 大きなケーキは、二人の食べるペースに合わせて一口分ずつ削り取られていく。共同作業のようでもあり、ゲームのようでもある。大勢ではこんな食べ方は出来まい。これも二人きりのクリスマスならでは。 和暁は、ベルメルの頬にクリームがついているのに気がついた。 「ベルきゅん。クリーム、クリーム」 そっと顔を近づけ、その白い頬をペロリと舐め上げる。滑らかな肌と甘いクリームの味が口の中を満たした。 「ありがと、和暁ぃ~」 ベルメルに抱きつかれ、和暁は軽くバランスを崩した。手にしたケーキを落とさないよう、手足をばたつかせて曲芸師のようにバランスを取る。 ケーキを置いてから、開いた両手でぎゅっとベルメルの体を抱きしめた。 じゃれあうようにぎゅむぎゅむと抱き合ってから体を離すと、互いの顔がすぐ近くにあった。 「メリークリスマス、だよぉ。和暁~」 「メリークリスマス。来年も宜しく」 挨拶を交わし、改めて二人えへへへと笑う。 やっぱり二人でクリスマスを過ごしてよかった。そう幸せを噛みしめる二人だった。
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