●『dies natalis Iesu Christi』
ゴーストタウンから、ふらふらと出てきたユキは、傷だらけだった。 ユキは、この日……クリスマスが、嫌いだ。何故なら彼は、数年前のクリスマスの夜に、彼の幼馴染である京太により、無理矢理従属種ヴァンパイアにされてしまったから。毎年この日には、その時のことを思い出してしまう。今日だって、そうだ。そのせいで、むしゃくしゃして、一人でゴーストタウンに突撃していた。 無茶しすぎて、体を動かすのもダルい状態で、その場に座り込んだ。そして、携帯電話を取り出して、電話をかける。相手は京太だ。 「迎えに来い」 それだけ言って、電話を切る。壁にもたれかかって、京太が来るまで待っていた。
「一人で行くとか馬鹿じゃねーの!」 走ってきた京太が最初に言った言葉が、それだった。来てすぐに怒鳴られるのは、ユキも面白くない。京太に聞こえるように舌打ちしてやる。 「……可愛くねぇな、お前は」 「べつに、可愛いとか思われたくないから」 ユキは、京太の左手をとって……少し迷った後、薬指に噛み付く。彼は従属種ヴァンパイア。貴種ヴァンパイアの血によって、回復する。そう、これは彼にとって、従属再生でしかない。左手の薬指に噛み付いたのも、意識してのことではない……はずだ。 なのに、その噛み付き方は、荒々しい。その表情は、とても辛そうに見える。京太の指を、噛み切ってしまいそうで。 こんな関係になるくらいなら、いっそ全部壊してほしかった。京太に依存するような関係になるくらいなら……。ユキは、京太の血の味を感じながら、そう思っていた。
「落ち着いたか?」 しばらくして、静かなままのユキに声をかける京太。その表情は、少し心配そうだ。そして、反応しないユキに、更に声をかける。 「そーいやぁ……今日ってクリスマスか。何か、毎年一緒にいるよな、俺たち。きっと、来年も一緒なんだろうなぁ」 そう言って笑うと、ユキが顔を上げて、京太を睨みつける。それを見て、京太は苦笑する。 「来年も一緒にお前といたいって事だよ、わかれよ」 その言葉に、ユキは下を向いてしまう。しかし……彼は、笑っていた。 「馬鹿じゃねーの……」 この日が嫌いなはずなのに、その原因となった相手の言葉が嬉しいなんて……きっと、嘘に違いない。そう思っていても……やはり、嬉しいと思ってしまっていた。
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