●『白い聖夜〜心の距離と募る想い〜』
日も暮れて少し経つ頃、路地を並んで歩く男女の姿が見える。 冴える風、塀越しには冬枯れの木。 周囲の侘びた風景に二人の和装はよく似合っている。 「いやー、いいお湯だったのですよ〜♪」 銀司はほかほかと湯気を立てながら、頭にタオルを乗せる。 寒い夜、銭湯からの帰り道なのだ。 確かに寒い日に銭湯は嬉しい。特に今日みたいに冷え込みの厳しい日ならば、それは一層だ。 でも折角のクリスマスイブにそれはどうだろうと永琳は思うのだが、銀司は気にしていないようだ。彼の和びいきはとっくに知っている。 「永琳はどうだった〜?」 のんびりとした問いかけに、永琳は普段どおりの態度で答える。 「ええ、よかったですよ」 「ん、それならよかったのですよー」 銀司はその返答に満足したのか、鼻歌を歌いながら路地を進む。 好きなことを好きな相手と一緒に、となるとプラス補正は二乗、三乗。そんな様子なのだろう。 と、しばらく歩いた所で銀二の足が止まる。永琳が小首をかしげた。 「銀司さん、どうかしたんですか?」 「んー、なんか冷えると思ったら、ほら」 言いながら、片足をあげて着物の裾を見せる銀司。そこには一欠けの雪が付いている。 雪とほころぶ永琳が楽しそうに空を見上げると、ちらほらと雪が落ちてきていた。 気が付かない間に降り始めていたらしい。思わず綺麗と呟く。 「ん」 「銀司さん?」 ぴったりとくっつくように寄り添った銀司に驚きの声をもらす永琳。 「ん、お風呂上りに冷えるといけないから」 そう言って、銀司は自分の着ている外套を広げて、その中に包むように永琳を傍らに抱き寄せる。 ちらちらと舞い落ちる雪を眺めながら、そっと優しく触れるように言う。 「ホワイトクリスマス……なんか良いことおきそうなのですよ〜」 「……えぇ。本当に」 特に何も考えないで良いこと、と発言した銀司へ、永琳は今夜を思って意味ありげに微笑んだ。 静かに雪が降る中、互いの体が冷えないように二人は寄り添いあいながら帰路へと付いた。
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