●『初めてのクリスマスと夜景』
「冴澄殿……私の我侭に付き合ってくれて感謝なのじゃ」 夜景が見所だという、定番のデートスポット。 はじめてのクリスマスに大好きな琅を誘うことに成功したポムは、嬉しさが顔中に滲み出ている。 精一杯のおしゃれをして、いつもの冷静さとはかけ離れた浮かれっぷりだ。 (「しかし、冴澄殿は迷惑ではなかったじゃろうか」) 好きだから、せっかくのクリスマスだからと強引に誘ったのだが、嫌々付き合ってくれているのではないか? 相手の反応が気になるものの、ポムは精一杯の笑顔を琅に向ける。 「その――」 「ん?」 「手……手を繋いでもいいじゃろうか?」 少し離れて歩いていたのだが、周りのカップルの様子を見てなんだかうらやましくなってきたポムは、意を決してそう声をかけた。けれど相手の顔に浮かんだのは、どうしたものかと戸惑うような、悩むような、そんな表情。 「……そうじゃのぉ。人も多いからの。逆に手を繋いだ方が危ないかもしれぬの」 ポムは、そう精一杯の笑顔を浮かべた。困らせたい訳じゃないから、と引き下がったものの、気持ちが落ち込むのまでは止められない。 今日だって、ちょっと強引に付き合わせてしまったから、もしかしたら本当は……。 つい、そんな風に思ってしまうポムの今の気持ちが、隠しきれなくて表に出ていたのだろうか。 「あー……」 「?」 嫌がられないよう微妙な距離を測りながら歩いていたポムに、琅はぶっきらぼうに手を突き出した。 「よ、よいのか?」 「確かに人が多いからな。はぐれても困るだろ」 「う、うむっ」 その言葉に、ポムは跳び上がらんばかりに喜びながら、勢いよくその手を取った。そうして、一番眺めのいい場所へ着くまでの数分の間、ポムは右手に愛しい人のぬくもりを感じながら幸せに包まれる。 離れた手は少女の意思ではなく、目の前に広がる景色に思わず力が抜けてしまったためだった。 「聞いていたよりも素晴らしいのぉ……。百聞は一見にしかずじゃの……」 予想以上の美しさを見せる夜景に、うっとりと溜息を漏らし眺め続けるポム。 手を繋いでくれたことに大胆になったのか、少女の体は琅にくっつけるようにして寄り添っている。 大好きな人と一緒にすごすクリスマスの夜。その幸せを、ポムは存分に満喫するのだった。
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