●『ハイパーお説教タイム』
ようせいさんがあらわれた! リッタはようせいさんをにらみつけている! ……今の状況を簡単に、ゲーム風に表わすならこうなるだろう。なぜなら、そのようせいさんとは受験を控えた夏野なのだから。 きちんと勉強しているかと心配して来てみれば、やっぱり妖精さんの格好をして遊びまわっている夏野に、リッタはこめかみを押さえた。
「ヘーイ、リッタも一緒に……へぶっ!?」 妖精さんの格好をしたままリッタに飛びついた夏野を、リッタは軽くかわす。そして、そのまま夏野の首根っこをつかむと、無理矢理床の上に正座させた。 「……今どういう状況か分かってる?」 夏野の目の前で仁王立ちになり、怖い顔で夏野を見下ろすリッタ。夏野は、少なくとも外見はしおらしく俯いていた。 「ハイ。スーパーお説教タイムです」 「……だから、なんでスーパーお説教タイムに入ってるのって」 「じゅけんせいだから」 「それが分かってて。なんで妖精さんの格好なんてして遊びまわってんの」 「いや、受験生にも息抜きは必要だから」 「いつも息抜きしてるじゃない」 リッタの厳しい突っ込みに、夏野はうう、と肩を落とした。それを見て、リッタはふと笑う。 「マ、勉強しなくてもいいけど」 「え?」 「来年予備校に閉じ込められてよければ」 「や、やりますやります!」 急にスックと背を伸ばす夏野。慌てて机に向かう。 (「どうでもいいけどその恰好のままで?」) と心の中で呟くリッタを尻目に、夏野は参考書数冊とにらめっこし始めた。
しかし、集中力はそう長くは持たないようで。次第に夏野は近距離なのをいいことにリッタにちょっかいを出し始めた。 「ここ分かんないんだけど〜」 などと言いながらリッタの肩を掴んで顔を近づけたり、そのまま勢いあまって抱きしめたり。わしわし髪の毛を撫でたり。無表情にそれらを受け流しながら、まるで大型犬にじゃれつかれたみたいだな、とリッタは思った。 そのじゃれつきは次第にエスカレートし、ついには床の上にリッタを押し倒した。そのままおでこに口付けようとする夏野を、リッタは手で待った、と制す。 「そういうのは去年やったからもういい」 え〜、と口をとがらす夏野に、リッタは、 「大学受かったら凄いご褒美あげるから」 とさらっと言った。 「え、マジ!? それっておでこにちゅーよりもっとスゴイこと……!?」 うん、と頷くリッタ。夏野はいよっしゃぁ! とない袖をまくる動作をした。 「それなら、お楽しみは受験合格後に取っておくことにして、今回は真面目に勉強しようかな!」 「今回は?」 「……イエ、次も真面目に勉強シマス……」 くるりと机の方を向いた妖精さんの背中が泣いている。リッタはそれを見ながらふっと笑った。
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