●『あなたに伝えたい、伝えなきゃいけないことがあるんだ』
はらはらと雪降る、ロマンチックなクリスマスイブの夜。 飾り付けられた公園の木々は美しく、あっちを見てもカップル、こっちを見てもカップル、どこを見てもカップルの山。 (「こんなカップルばかりのところに連れ出してどうするつもりなのかしらね」) 翠は辺りを見回してから、隣を歩く司をちらりと見た。 先程から『イルミネーション綺麗だな』とか言っては黙り、『ツリー、すっげぇ大きいな』とか言っては黙りを繰り返している。何かもっと、他のことを言いたそうに見えないこともないが……。 (「そういえば前に、戦争前に伝えたいことがあるとか言ってたけど、まさかねぇ」) そこら中でいちゃついているカップル達を無視しつつ、翠もツリーを見上げて『綺麗ねー』などと一応話を合わせてみる。確かにとても立派なクリスマスツリーで、別にカップルでなくても一見の価値アリだ、と思った。 「あ、あのさ!!」 突然の大声。見れば両手をがっしりと掴まれている。 司が真剣なまなざしで、翠を見つめていた。翠は若干驚いて目を丸くしつつも、続く言葉を待ってみる。 「ぁ……あぁ、あのさ、翠さん」 「うん」 「せ……戦争前に、伝えたいことがあるって、言ったけど」 「うん」 少し間が開いた。司は口をぱくぱくさせてから深呼吸して、それから。 「あのな、オレ。翠さんのことが……す、すっ……す……」 「す?」 「すきやき!」 違う! 「……じゃなくって! あれだ、好きなんだよ!!」 ちゃんと言い切った。つもりだったけど。 「……わんもあぷりーず」 翠が少し頬を染めて、笑って言うので。 「…………好きです。付き合って下サイ」 改めて。恥ずかしくて翠からは目を逸らしてしまったけれど、直球の告白だった。 「……ええ、私も好きよ司」 「!」 さらっと言われてしまい思わず顔を上げた先で。 年下だけど、女性だけれど、司よりも背が高く、クールで、どちらかといえば『カッコいい』翠が。 かわいらしく頬を染めて微笑んで、司を見ていた。 「〜〜〜!?!?」 思わず見とれたいくらい可愛いのに、やっぱり直視出来なくて。照れ隠しに片手は握ったままぶんと大きく振り返る。 この夜の公園に、新しいカップルがまたひと組。手を繋いで歩き出す。
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