●『クリスマスの悲劇(?)』
赤と緑に彩られた町並み。歩き慣れた商店街も装いを変え、すれ違う人々のどこか浮かれた空気が、里緒奈の気分を高揚させた。 この日の為に新しく買ったスカートを揺らし、上機嫌で隣を見上げれば、優しく微笑む、ツカサ。思わず里緒奈の頬も緩む。 「クリスマスにデート……えへへ、幸せです……♪」 「こうして里緒奈と二人で過ごすのも、久しぶりだな」 「はいっ」 お店を覗いて可愛いぬいぐるみにはしゃいだり、ツカサに似合いそうなアクセサリーに目を輝かせたりするのをこんなにも楽しいと感じるのは、やはりツカサが隣にいて、笑ってくれているからだろう。 「さて、この後はどうする?」 「そうですねぇ……」 お互いの手にはいくつかの紙袋。休憩がてら喫茶店にでも入って、プレゼントの交換でも──。 「あ、そうですツカサさん! ちゃんとプレゼントも用意して……!」 後になって思えば、こんなところで出す必要なんて、どこにもなかった。 けれど、そんなことも考えられないくらいに里緒奈は、ツカサの喜んでくれる顔が早く見たかったのだ。 ところが。 「あっ?!」 紙袋にプレゼントの端が引っかかり、里緒奈の手からすっぽ抜ける。更に、それを追って振った彼女の手から、荷物という荷物がすっ飛んだ。 「あー」 「ご、ごめんなさ……あれ?」 ツカサが笑いつつも素早く荷物を拾い集めてくれるが、その中に肝心のプレゼントがない。慌てて周囲を見渡した里緒奈の目に映ったのは、迫るロードローラーと、その前に転がった、プレゼント。
「にゃああああっ?!」 里緒奈の悲鳴も虚しく、せっかくのプレゼントは三次元から二次元の存在へと成り果ててしまう。ツカサはどうすることも出来ず、しばらく呆然とその状態を眺めた。 (「なぜ商店街にロードローラーが……」) いや、もしかしたら決して珍しいことではないのかもしれない。 だが、なにも、今でなくたって。 「プレゼントが……ぷれぜんと……」 隣にいた里緒奈がへなへなと崩れ落ちるのが視界の端に映って、ツカサは驚いてその傍にしゃがみ込んだ。彼女の大きな目には、溢れんばかりの涙が浮かんでいる。 潰れてダメになってしまったプレゼントはもう仕方ない。それよりも、里緒奈を慰める方が大事だ。 「ほら里緒奈、落ち込むな。気持ちは十分に伝わった、な?」 よしよしと頭を撫でて顔を覗き込み、懸命に言うが、彼女は言葉にならない声と共に頭を振る。 「今回で終わりじゃないだろう?」 クリスマスなんて、来年だって再来年だって、一緒に過ごして一緒に笑えばいい。 プレゼントなんて、誕生日だって何の記念日だって、贈り合えばいい。 そう言葉を尽くすが、彼女の中では納得がいかないらしい。 遂に溢れてしまった涙を、止めることが出来ずにいる彼女のまっすぐな髪を撫でつつ、ツカサは苦笑した。 (「やれやれ、恋人というより……保護者の気分だな」)
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