●『Merry Snow Christmas』
昨年は琉架の部屋でクリスマスを過ごしたから、今年は剛の部屋で過ごそうと二人で交わした去年からの約束。 必要最低限の家具以外はたいした物はなく、良く言えばシンプルな和室であった。 部屋の真ん中には、小さいちゃぶ台が一つ。 ちょこんと乗ったブッシュ・ド・ノエルとクリスマスミニツリーが、辛うじて今日が聖夜であることを思い出させる。 琉架は、物珍しそうにきょろきょろ部屋を見回す。 「面白い物なんてないぞ」 苦笑しながら剛は、熱々の紅茶を注ぐ。 心外そうな顔をして振り返り、琉架は力説する。 「そんな事……! 剛さんのお部屋にある物には、何でも興味深々なのです!」 「……楽しいなら良いけれど」 可愛らしく頬を膨らませる琉架に剛は笑い返した。 なおも、あちこち見物している琉架にブッシュ・ド・ノエルを切り分け座るように諭す。 「ほら、ケーキ食べようか」 琉架は座布団の上に静かに腰を下ろし、ケーキを嬉しそうに見つめる。 そして顔を上げ、おもむろに剛の顔を見た。 いただきますと笑顔で囁き、ケーキを口へ運んだ。 「美味しいですね」 微笑んだ琉架がふと窓の外を見やると、少し驚いた表情で指を差した。 「あ……! 剛さん、剛さん! 雪ですよ!」 剛も慌てて窓のほうへ視線を移すと、確かに真っ白な雪が花弁のように舞っていた。 二人で窓に近づいて外を見る。 先程までは、ただの真っ暗な闇だった空から、ちらちらと舞い落ちる雪。 「ホワイトクリスマスですね」 「だな。ここ数年は毎年クリスマスに雪が降っている気がする」 「……確かに……」 関東でクリスマスに雪が降ることは珍しい。 しかしきっと、クリスマスの奇跡が起こっているのだ。 恋人たちを祝福するための粋な計らい。 他愛もない話をしながら、そっと剛が琉架の肩に手を置くと、琉架が幸せそうに微笑んで剛の肩にもたれ掛かった。 そのまま二人寄り添い、降り始めた雪を眺め続ける。 いつまでも、いつまでも。
メリークリスマス──。
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