●『―――イルミネーションの下で』
夜の帳が下りた街――それは光の海を輝かせる最高の舞台。 恵弥とナツミは手をつなぎ、銀誓館学園に近いとあるイルミネーションスポットに足を運んだ。 この近くには、もっと大掛りなイルミネーションをされた公園がある。そちらに人が流れているのだろうか。思ったよりも人気は少ない。 自分たちも迷ったが、ここで足を止めた。 満天の星を掲げたクリスマスツリー。共に踊るは地上の光たち。 ――ささやかな光はとても優しく、綺麗だったから。
急に改まった表情で、恵弥はポケットの中に隠していたものを取り出す。 決意を固め……いざ! 「左手貸して」 首を傾げるナツミの左手を取り、恐る恐る『それ』をはめた。 ナツミの目が一層大きく見開く。 それは――指輪だ。 蝶が羽ばたく紋様をピンクシルバーに刻み、小粒ながらもダイヤモンドをあしらった華奢な指輪。 「ようやく渡せた……」 緊張の糸が切れたせいか、恵弥はどっと息を吐いた。 頬は薄っすらと朱を帯びる。 実は数ヶ月前に仮の婚約をしていたが、今まで渡せなかった。 積もり積もった思いは、嬉しさから恵弥の口に笑みを描かせる。 「嬉しい……。……ありがとう……メグミ……」 いつもよりたどたどしく、ナツミは言葉を紡いだ。 薬指によく馴染む指輪。これが恵弥の手作りだとナツミはすぐに分かった。 恵弥はシルバーアクセサリー作りが趣味だ。これまでにも何度か、ナツミにプレゼントしてくれることがあった。 ――それが今、自分の薬指を飾るなんて。 ナツミの瞳が潤んだ。悲しみがもたらす涙ではない。 嬉しくて嬉しくて、今にも雫がこぼれ落ちそうだった。 光の海の中、重なり合う影。 そっと唇を離せば、まだ一つになっていたい余韻が残る。 恵弥は夜空を仰ぎ、思い出すように呟いた。 「ガキの頃はクリスマスって大嫌いだったよ」 幸せそうな子供たちも、幸せそうなフリをしている大人たちも、憎かった。 自分にはなかったもの。 ――けれど。 「でも少し好きになれそう。ナツミのおかげだよ……アリガト」
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